日医ニュース 第898号(平成11年2月5日)

日精協が精神保健福祉で「提言」


提 言

 昨今の一連の精神病院不祥事に加え,国立療養所犀潟病院に入院中の患者が拘束中に窒息死した事故が発生した.これらは,病院側の精神保健福祉法の趣旨に対する認識不足と不手際によるもので,決して許されることではない.再びこのような事件が起こらないために,精神医療に携わる者は改めて国民から信頼され,患者・家族から親しまれる精神医療に努力しなければならない.
 これらの事件をきっかけに,行政は精神病院に対する指導監督の強化という方針を打ち出した.しかし,こうしたことでは決して解決には結びつかないだろう.それよりも,今日の精神医療の問題の本質に迫る解決策を早急に講じる必要がある.
 今日のわが国の精神医療の大きな問題点は,第一に,国公立病院と民間病院との役割分担が不明確であることである.このため,本来,国公立病院が担うべき対応困難な患者に対する処遇や,地域における機能分担を前提とした救急医療などの対応が不十分となり,民間病院がこれらを支えているのが現実である.第二に,一般の医療に比べて診療報酬上の評価がきわめて低いことである.このような低医療費のもとでは,精神医療の質の維持・向上にはおのずと限界がある.そして,第三に,触法精神障害者(重大な犯罪を犯した者など)に対する医療対応が不備であることが挙げられる.
 そこで,来年に予定されている精神保健福祉法改正では,次の3点を盛り込むとともに来年度予算でも大幅な増額措置を講ずることを求める.

1,精神科救急の体制整備を早急に図ること.
2,国公立病院は民間病院で対応困難な患者を積極的に受け入れる等,その役割を明確にすべであること.
3,医療対応の継続性の観点から触法精神障害者に対するあり方を,以前の保安処分論議とはなる観点から検討すること.

以上

平成10年12月10日 精神保健懇話会

精神保健懇話会構成メンバー(五十音順)

糸氏英吉(日本医師会副会長)
金澤昭雄
(全日本指定自動車教習所協会連合会会長)
紀伊国献三
(東京女子医科大学学長付客員教授)
幸田正幸
(全国社会保険協会連合会理事長)
竹中浩治
(ヒューマンサイエンス振興財団理事)
保崎秀夫
(慶應義塾大学名誉教授)
(座長)水野 肇(医事評論家)


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