日医ニュース 第899号(平成11年2月20日)
視点 |
要介護認定の「ブラックボックス」と対応方法 |
厚生省は,平成7年に特養入所者と在宅老人を対象として,高齢者の属性とコード化されたケアごとの実施回数や提供時間を調査した.平成8年には,328種類に分類したケアコードごとに1分間タイムスタディーを行い,全ケアコード別のケア時間の和を総ケア時間として認定の尺度にし,樹形モデルを作成した.「コンピューター判定」の「ブラックボックス」の始まりである.
平成8年,9年とモデル事業を実施し,問題点を解決する目的で大幅に修正し,平成10年には,ほぼ全市町村でモデル事業が行われた.
事業報告では問題点が解決されなかっただけではなく,審査会の存在を否定するような運営がなされたため,47.2%の地域で95%以上の一致率という,考えられない数字が示された.
厚生省は「ブラックボックス」を説明することなく,再々々修正を計画しているようだ.
日医は何度となく「ブラックボックス」の開示を強く要請していたが反応はなく,各年のモデル事業結果を検証するにかぎられていた.
今回,有識者の協力を得ながら,独自に「ブラックボックス」の解明を試みた結果,数多くの問題点が判明してきた.
・施設入院・入所者を対象にしたデータベースであり,在宅高齢者への応用には限界がある.
・グループ分け(分岐を含む)は統計的な評価のみで,臨床的な評価が行われていない.
・713の調査項目の信頼性の検証が不十分.
・グループ分けが細かすぎるため,モデルとしての再現性がない.
・「自立」と「要支援」の区別について,時間の推定精度が悪いため,区別できない.
・「問題行動なし」の対象者700例をもとに,直接・間接・機能訓練・医療の樹形モデルを作成したうえで,「問題行動あり」の対象者のケア時間を推定しているが,信頼性があるとは思われない.
・「特別な医療」に対応するケア時間は,樹形モデルでは推定は不可能.
介護保険制度施行が来年4月に迫り,要介護認定作業は本年の秋から開始する.現行のデータベースを基に修正を試みたとしても,本格的実施が始まると,現場の大混乱が予想される.一次判定結果をあくまでも参考資料(目安)として位置付け,各市町村,利用者,審査委員が理解・納得できる二次判定の明確な基準(指標)を設定すべきである.