日医ニュース 第901号(平成11年3月20日)

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大学勤務医の意識調査
(東京都医師会)

東京都医師会とアンケート調査

 東京都医師会(佐々木健雄会長)は,平成9・10年度勤務医委員会委員として,都内12大学医師会からの推薦により,大学病院勤務医20名を指名した.
 「医療連携における勤務医の役割」として諮問を受けた委員会では,すべての委員が特定機能病院である都内12大学医師会に所属するという特徴を最大限に利用して,特定機能病院の現状と大学病院勤務医からみた医療連携とを知るために,大学病院勤務医に対するアンケート調査を1998年7月に実施した.
 アンケートの内容は,特定機能病院の役割,大学病院での診療状況,大学病院勤務医からみた医療連携などに始まり,保険医定年制,医師会に入会した動機,将来計画など多岐にわたるものであった.対象とした勤務医は,1997年12月1日の時点で,都内20大学医師会所属の勤務医4,368名および三鷹医師会会員として東京都医師会に所属する杏林大学附属病院勤務医86名の総計4,454名であり,回収数は1,473,回収率は33.1%であった.
 アンケート集計の詳細な分析は他に譲るとして,本稿では,アンケートに寄せられた自由意見をもとに,大学勤務医の意識調査として述べてみたい.

アンケート回答者の概要

 回答者の年齢分布をみると,50歳未満が75.7%を占めており,今回の調査の母集団が比較的若い世代に集中していることを表している.
 次に大学における役職をみると,講師以下の者が64.2%と多数を占めている.しかし,この中身をみると,講師19.3%,助手21.2%と有給者に比重がかかり,おそらくどの大学でもほぼ半数を占めると思われる,いわゆる無給医は23.7%にすぎない(大学院生を含む).医師会としては,これら一番若い世代に対しての組織化が十分なされていない,と受け取るべきであろう.
 回答者の将来計画としては(複数回答),若い世代の回答者が多かったためか,未定と答えた者が29.1%あったが,市中病院に勤務する(17.0%)が,開業する(13.8%)を抑え,大学に勤務する(36.7%)とあわせて,大学病院勤務医師の勤務医志向の傾向がうかがわれた.

大学での役職
No. カテゴリー名 n %
1  教授 182  12.4 
2  助教授 139  9.4 
3  講師 284  19.3 
4  助手 312  21.2 
5  大学院生 89  6 
6  研修医 22  1.5 
7  その他の医局員 239  16.2 
8  無回答 65  4.4 
   不明 141  9.6 
   全体 1473  100 

将来計画
No. カテゴリー名 n %
1 大学に勤務する 541  36.7 
2 市中病院に勤務する 251  17 
3 開業する 203  13.8 
4 行政に進む 10  0.7 
5 医療以外の道に進む 40  2.7 
6 未定である 428  29.1 
7 無回答 95  6.4 
8 その他 29  2 
  不明: 158  10.7 
  全体 1473  100 
    累計(n) 累計(%)
    1755  119.1 

アンケート自由意見

 医療連携に関する自由意見の代表的なものは,医療連携を知らないものが多い(診療側も受療側も),医療連携に必要な情報が少ない,効率的な医療連携を行うためには新しいシステムを導入すべきであるなどの意見が多かった.これに関して,医療連携に必要な情報を医師会から提供してほしいという要望も多かった.
 医師会に対する意見として,他には,勤務医の意見を取り上げてほしい,医療の専門職として毅然とした態度で望んでほしい,医療に関する国民への啓発が少ないなど,現状の(大学勤務医が知ることのできる)医師会活動に対する不満が多く寄せられた.
 医師過剰と保険医定年制に関しては,医療の質を考えれば医師過剰など論外である.実際には高齢の先生方が地域医療に貢献しているなどの意見があった.
 大学病院に関しては,経済的にも肉体的にも劣悪な勤務状態を訴えるものが多かった反面,現在の医学教育環境からみて,将来の臨床医の倫理的,技術的能力を危惧し,新しい医学教育体制を模索するべきであるという提言も多くみられた.
 医療保険制度に関しては,介護保険・老人医療に対する医療側の調整が必要である,医師の技術料を評価する制度に改めてほしいから始まって,診療報酬点数制を撤廃するべきである,とするものまでさまざまな意見が寄せられた.また,医療行政に関しては,薬剤費が30%を占めるような医療費は問題である,末期医療における過剰医療を見直すべきである,厚生省主導の医療行政は改めるべきである,高い水準の医療にはそれなりの費用がかかることを国民に知らせ,医療の水準を国民に選択させる時期にきているなどの意見がみられた.

大学勤務医と医師会

 以上,自由意見をもとに大学勤務医の意識を述べた.もちろん,回答者のすべてが自由意見を書いたわけではなく,大部分が空白であったことは否めない.しかし,書いてくれた回答者はそれなりに,医療,医療行政,医師会活動に興味を持ち,勉強をし,現状に危惧を抱いたからこそ意見を寄せてくれたのであり,医師会としてはこれらの意見に真摯に耳を傾けるべきであろう.
 医師会の考える今後の日本の医療が,国民の利益を考える医療であるならば,限られた財源のなかで無駄のない医療連携を推進するために,できるだけ多くの人の意見を聞くべきである.
 今日,日医会員の46.3%(平成10年8月現在)を勤務医が占めており,東京都医師会においては大学勤務医が会員の約4分の1を占めている.医療連携を語るうえで大学勤務医の意見は欠かせない.
 都内大学の医師会組織率はまだまだ低く,全国的にみてもおそらく同様であろう.円滑な医療連携を推進するためにも,大学勤務医の組織化を急ぐ必要がある.
 大学勤務医も,医療に関する情報には飢えており,敏感である.未入会の大学勤務医にも,会員にも,そして,国民にもはっきりとわかる医師会活動を推進することが,大学勤務医組織化への王道ではないだろうか.


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