日医ニュース 第905号(平成11年5月20日)

視点

医療事故防止と意識改革

 本年1月の横浜市大附属病院の患者取り違え事故のあとも,いくつかの病院の医療事故について,新聞,テレビなどで報道された.それらの事実関係を把握していない部外者が無責任に論じるつもりはないが,同じく医療に携わる者として,このような事故が発生することはまったく遺憾の極みであり,患者さんとご家族の方々の心情を想うとまことに心が痛む.
 一連の不幸な事故の報道を目のあたりにし,われわれ医師は,起きた結果についてただ嘆くばかりでなく,安全な医療を提供するために,その事故がどうして起きたのかを明らかにし,それを教訓とすることが大切である.
 日医では,平成9年度より医療安全対策委員会を設置し,「医療におけるリスク・マネジメントについて」と題する報告書を公にしている.これは,安全な医療の提供を実現し,患者が安心して医療を受けられるための基本的な考え方をまとめたものである.また,医療事故を防止するために,医療機関が学会や医療団体を通じて事故や危険因子に関する情報を収集し,それを分析して,その結果を医療現場に戻すこと,すなわち,安全対策へのフィードバックが重要であることを挙げている.
 こうした提言を受けて本年3月には,病院4団体と厚生省(オブザーバー)を交えた「医療安全推進合同会議」が日医の呼びかけで開催され,医師会だけに止まらない,医療界全体としての取り組みに着手したところである.医療界全体が医療安全対策についての認識を新たにし,医師全員に注意を喚起し,また,すべての施設において率先してこの行動を起こすことが重要であることを提言した.
 医療事故の防止には,事故例を分析し医療現場にその分析結果を資料としてフィードバックする,そしてみずからの施設においてマニュアルを作成する,ミスやエラーの自己申告制を導入するなど,対策や方法が考えられる.そのいずれも,それらを実行することによって相応の事故抑止効果が生まれるものであり,現にそれらの行動を起こすことにより成果をあげている施設がある.
 医療事故防止の効果をあげるには,まず医師1人ひとりが医療事故を自身の問題として認識し直すという「意識改革」をすることが必要である.


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