日医ニュース 第914号(平成11年10月5日)
ロンドン会議開催される −日医から坂上参与が出席− |
「ヘルシンキ宣言の修正 〜新たな出発〜」と題する国際ワークショップが,九月三,四の両日に英国ロンドンの王立医学会で開かれた.日医からは,代表として坂上正道参与が出席し,講演を行った.
この会議は,Bulletin of Medical EthicsとヨーロッパGCPフォーラムが企画し,王立医学会等が後援した.会議には,世界の関連組織,研究者,製薬業界等から専門家約七十名が参加し,このうち坂上参与を含め約二十名が講演を行った.
ヘルシンキ宣言「ヒトを対象とする医生物学的研究に携わる医師に対する勧告」は,一九六四年に世界医師会(WMA)の宣言として採択された.その後,七五年のWMA東京総会において倫理委員会の設置や,より詳細なインフォームド・コンセントの明記等の修正があった後,八三年,九六年と修正が重ねられてきた.
そして,九七年秋のWMA総会で,アメリカ医師会からの大幅な修正案が提出されて以来,この宣言の修正をめぐり,WMA内でさまざまな検討が重ねられてきた.昨年からは,エール大学のレバイン教授を中心とした作業部会で議論が行われ,その最終の修正案が,今年四月のチリ・サンチャゴで検討されたが採択されなかった.これに応じて,WMAは新たな作業部会を設置して,新しい展開を図ろうとしているところである.
今回の会議は,こうした背景のもとに開催された.そのプログラムの柱は,次のとおりである.
(1)国際的議論の再確認, (2)治療的・非治療的研究の区別,(3)医生物学的研究の基準,(4)インフォームド・コンセントと研究対象の選択,(5)ヘルシンキ宣言の適用,(6)ヘルシンキ宣言の修正について,(7)研究参加者とヘルシンキ宣言,(8)医生物学的研究におけるヘルシンキ宣言の今後の役割.
坂上参与は,日本での治療的・非治療的研究の区別の評価について講演を行い,そのなかで,日本の医科大学・大学医学部の倫理委員会の構造について概説し,今後も倫理委員会が被験者と患者の人権を保護するような運営がなされるべきと結んだ.
この会議に提出された意見や議論は,WMAに吸い上げられ,将来,ヘルシンキ宣言の修正作業において重要な参考意見として集約されることとなる.
一方,日医は,先にWMAの作業部会に対して修正案の提示を行った.日医案では,各論における修正は相反する意見が多く,各国が等しく納得する内容に集約することは困難と考えられるため,既存のヘルシンキ宣言の倫理的規範部分のみを簡潔にまとめた.また,実務的部分については,その規範を土台にして,各国がそれぞれの社会・文化的背景に応じたマニュアルを作成するよう勧告するという形の大幅な修正案の提示を行っている.