日医ニュース 第916号(平成11年11月5日)

世界医師会(WMA)について


世界医師会の組織と主な役割

 世界医師会(World Medical Association: WMA)は,一九四六(昭和二十一)年九月,英国医師会と国際医療専門協会(APIM)がロンドンに各国医師会の代表を招集して会議体を形成したことが,近代における発祥とされており,一九四七年九月,二十七カ国の医師会を代表する代議員が一堂に会し,パリで「第一回WMA総会」が開催された.
 WMAは,現在,各国または地域を代表する七十二の医師会で構成され,これらの医師会の会費で運営されている.
 WMAの組織は,会長,次期会長,前会長,理事会議長,副議長,財務担当役員の六名の役員が執行部を構成し,また,理事会の構成員(理事)は現在十五名で,会員数による規定により,ヨーロッパ,アジアなど六つの地域から選出される.日本は,アメリカ,ドイツ,イギリス,フランスなどと並んで常に理事を出している常任理事国である.日医からは現在,坪井栄孝会長が理事を務めている.
 WMAは,その定款で,医学教育・医学・医術および医の倫理における国際的水準をできるだけ高め,また,世界のすべての人々を対象にしたヘルスケアの実現に努めながら人類に奉仕することが目的であると定義している.こうして,患者の利益を最優先するという誓約の下で,人種・信条・政治的・社会的立場などとは無関係に,全世界の国民の健康に向けて可能なかぎりの良質なヘルスケアを提供するために,各国の医師会の代表者が集まり,討議する場として機能している.
 このために,WMAは臨床問題にかぎらず,医の倫理,医学教育,社会医学などに関連する問題を含み,率直に討論するための自由で開放的なフォーラム(公開討論の場)を設けている.
 このような場を通じて,WMAは,設立以来,加盟各国の合意の下に,さまざまな内容の指針や勧告を宣言や声明の形で採択して,公にしてきた.
 これらの採択された各種の宣言,声明は,法的な拘束力は持っていないが,これらの文書が各国の医療界において,大きな影響力を及ぼしていることは事実である.
 現在,WMAの会員(会員とは各国医師会のことである)として七十二カ国の医師会が加盟している.それ以外に準会員制度による個人資格の会員が約千二百名おり,そのうち約八百名が日本からの準会員である.

日医の加盟

 日医がWMAに加盟したのは,一九五一(昭和二十六)年の第六回ストックホルム総会からである.その後,一九七〇年代は,日医がWMAと頻繁に接触し,また,活動した時期である.
 一九七五(昭和五十)年には,第二十九回総会を東京で開催し,当時の武見太郎日医会長が世界医師会長としてこれを主宰した.このときの総合主題は「医療資源の開発と配分」であった.これは,今日に至るまで各国で議論されている課題で,このテーマに関する宣言,声明案は毎年のように提出され,検討されている.

宣言・声明の採択過程

 WMAは,春に中間理事会,秋に総会を開催している.日医はほぼ毎年これに参加し,総会については,準会員を含め総勢四十から五十名の参加者を送っている.
 WMAの議事決定機構は,まず,財務企画委員会,医の倫理委員会,社会医学委員会という三つの常設委員会が設けられていて,ここで採否を要する事項が検討される.必要な場合は作業部会などが開催される.委員会での議決された事項は理事会に送られる.次に理事会での検討の結果,総会に諮られる事項が決定され,最終的に総会で採否が決定される.
 総会へ採択のため付託された文書は投票で採択されるが,倫理に関する文書は,その四分の三の賛成を要するという慎重さをとっている.日医のWMA理事である坪井会長は,現在,財務企画委員会と倫理委員会の委員となっている.また,各委員会には日医から一名ずつアドバイザーを出している.

宣言,声明文書

 WMAで採択された宣言,声明,決議は多々あるが,主なものとしてジュネーブ宣言・医の国際的倫理基準,ヘルシンキ宣言,リスボン宣言などがあげられる.内容的には,倫理関係の文書が多数を占めている.(文中役職は,イスラエル総会前)


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