日医ニュース 第918号(平成11年12月5日)

日医総研フォーラム2
医薬品製造業10社平成10年度財務分析(2)
(決算短信/単独決算ベース)

前号では,医薬品製造業の収益について説明した.引き続き今回は,生産性および財務の安全性,経営効率(総資本利益率)について説明する.

●●●●● 1人当たり経常利益9.7百万円 ●●●●●

 1人当たり売上高は10社平均で56.2百万円,売上高,社員数ともに規模の大きい武田,三共が大きい.過去の通念では,「規模の拡大に伴って生産性が低くなる」であったが,武田と三共にはその通念が通用しない.
1人当たり営業利益では三共が18.5百万円で,第2位の武田14.6百万円を3.9百万円上回っている.仮に,三共がこの生産性を維持して武田の規模になるとすれば,営業利益は32.5%(414億円)増の1,690億円になる.武田が三共並の生産性を確保するためには,計算上1,935名の人員削減が必要になる.三共の生産性がいかに高いかがうかがえる.
営業利益から営業外収支を引いた経常利益を1人当たりで見ると,10社の平均は9.7百万円,三共は18.7百万円,武田,山之内は14.9百万円である.ちなみに,自動車産業トップのトヨタは8.5百万円,常に新しい経営手法で話題のソニーは2.2百万円,ガリバーキリンの寡占を切り崩して話題のアサヒビールでも11.8百万円である.10社平均が9.7百万円である医薬品製造業の生産性の高さがここにも表れている.

図3 社員数/一人当たり経常利益

●●●●● 余裕のある医薬品メーカー ●●●●●

 即時の支払余力(手元流動性)を示している現・預金の残高は,製造業平均1.72カ月,化学工業(資本金10億円以上365社:以下同じ)平均2.64カ月である.医薬品10社平均は6.06カ月で3.42カ月ほど化学工業平均より余裕がある.武田8.55カ月,第一製薬7.37カ月,三共7.23カ月,山之内6.67カ月,エーザイ6.62カ月と各社手厚い手元流動性を確保している.
当座比率は100%を超えたら優良といわれているが,協和発酵の98.5%を除いてすべて100%を超えており,医薬品メーカーの余裕のあるところを示している.協和発酵を除く9社の平均は,284.7%である.製造業では91.0%,化学工業は平均114.2%である.
エーザイは当座比率では423.3%で武田の366.0%を上回っているが,手元流動性では6.62カ月で武田の8.55カ月を下回っている.この原因は,売上債権の滞留にある.武田は3.26カ月の売上債権だが,エーザイは5.51カ月も滞留している.エーザイが武田と同等の回収率を達成すれば,手元流動性は8.87カ月になり,武田を上回る手元流動性を保持することになる.10社平均の売上債権回転期間は4.09カ月である.全産業平均では2.01カ月,化学工業は平均3.49カ月である.
中長期の財務安全性を示す借入金依存度,固定長期適合比率を見れば,企業の財務構造の善し悪しがよくわかる.借入金依存度は総資本に占める有利子負債の割合で,武田は有利子負債ゼロ無借金経営になっている.医薬品業界で武田の強さの一面がここにも出ている.10社平均では8.3%,もっとも悪い中外でも25.0%である.製造業平均では33.1%,化学工業の平均は58.8%である.運転資金の余裕をどれだけ長期の資本で確保しているかを示す固定長期適合比率は10社平均47.6%,製造業平均78.9%,化学工業の平均は71.0%である.無借金経営の武田は33.3%,この比率がもっとも悪い山之内でも化学工業の平均並みの70.0%である.70.0%は決してよい数値ではないが,山之内は借入金依存度が5%と低いので,長期借入金を導入してこの比率を改善することもできる.

●●●●● 経営効率の良さが目立つ ●●●●●

 
総資本利益率は,経営の迅速性を表す総資本回転率(売上高÷総資本)と,収益性を表す売上高利益率の掛け算である.したがって,総資本利益率を向上させるには,総資本回転率を上げる,売上高利益率を高めるという二つの方向がある.ここではタテ軸に総資本回転率,ヨコ軸に売上高利益率をとった.総資本利益率の高い会社が右上の第III象限に集まる.ここにも三共と武田がプロットされている.売上高,社員数,総資本等規模で10社中第1位の武田が総資本回転率0.67回と,協和発酵,田辺に次いで塩野義とともに第3位に位置している.規模と迅速性を伴って成長している姿が見える.三共は0.63回と回転率(タテ軸)は幾分低い.
しかし,ヨコ軸の売上高利益率では14.7%で,武田の10.9%を3.8%上回っている.総資本回転率と売上高利益率の掛け算である総資本利益率では,三共が9.2%でトップを確保し,武田が7.3%と続いている.売上高利益率が11.0%と三共に次いで高い山之内は総資本回転率が0.38回と低いために,総資本利益率では4.1%と低くなっている.今後,資本,資産等財務構造の改善による総資本回転率の向上が求められよう.
製造業平均の総資本回転率は1.06回,化学工業(資本金10億円以上365社)平均0.77回転である.売上高利益率は製造業平均1.34%,化学工業平均3.17%,総資本利益率は製造業平均1.43%,化学工業平均2.44%である.医薬品製造10社の経営効率の良さが目立つ.

図4 経営効率(1)/総資本利益率

次回は,経営効率(株主資本利益率)および国際化について説明する.

(日医総研主席研究員 中村十念)

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