日医ニュース 第922号(平成12年2月5日)

「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」開催
年金,医療,介護などを総合的に検討

このたび,小渕恵三内閣総理大臣が主宰する「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」が発足した.この問題については,かねてから坪井栄孝会長もその見直しを主張していたもので,今後の議論の行方が注目される.

 「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」(以下「有識者会議」)の初会合が,一月十八日,総理大臣官邸大客間で開催された.
 「有識者会議」は小渕内閣総理大臣の私的懇談会として設置されたもので,少子高齢化が進行するなかで,社会保障制度が将来にわたり安定した効率的なものとなるよう,年金,医療,介護などを総合的に,かつ,給付と負担を一体的に捉えて検討することを目的としている.
 坪井会長も,かねてから日医代議員会などで,社会保障の財源に関する国の問題意識ははなはだ希薄であり,社会保障制度の理念,哲学を見直すためにも,政府の中枢と協議ができるような場(「社会保障経済戦略会議(仮称)」)の設置を主張してきたが,この有識者会議は,その主張が具体化されたものとなっている.
 有識者会議は,小渕内閣総理大臣はじめ,関係五閣僚(青木幹雄内閣官房長官,丹羽雄哉厚生大臣,宮沢喜一大蔵大臣,保利耕輔自治大臣および堺屋太一経済企画庁長官)ならびに十九名の委員(下掲)で構成されており,内閣総理大臣が主宰し,厚生大臣がこれを補佐する形をとっている.また,必要に応じて,関係大臣その他関係者の出席を求めることができることにしている.
 有識者会議における当面の検討事項としては,(一)少子高齢社会を目前にしての新しい高齢者像,(二)社会保障の基本的な考え方,(三)給付と負担の在り方,(四)社会保障の財源等が挙げられている.

統一的・総合的なビジョンの創設を求めた小渕総理
 冒頭あいさつに立った小渕内閣総理大臣は,次のように述べ,統一的・総合的なビジョンの創設を求めた.
 「来るべき二十一世紀に向けて,国民の不安を解消し,『将来にわたり国民が安心して暮らせる活力ある社会』を築いていくことは,政治の大きな課題の一つである.そのためにも,少子高齢化が進行するなかで,安定した社会保障制度を構築していかなければならない.近年,社会保障の将来について不安を感じているとの国民の声もあるなかで,かねてより,私が申しあげてきた『安心への架け橋』としての社会保障が十分にその機能を発揮していくことが強く求められている.このような観点から,このたび,有識者の方々に集まってもらい,社会保障構造の在り方について,年金,医療,介護など横断的かつ総合的な議論をお願いすることとした.二十一世紀のわが国にふさわしい社会保障制度の在り方について,幅広い視点から検討いただきたい」
 引き続き,議事に移り,貝塚啓明中央大学教授を座長に選出した後,初会合ということで各委員より自己紹介を兼ねて,今後の重要な課題や問題意識についての意見の開陳が行われた.

坪井会長,ダイナミックな政策展開を強調
 坪井会長からは,「年金,医療,介護の制度を横断的に検討することは賛成である.具体的にはこれらの個々の制度を検討するという方法と,一つの政策,例えば高齢者の処遇体系というような政策を取り上げ,それに対する各々の制度を検討するといったダイナミックな政策の展開という方法論もあるのではないか.また,社会保障の負担の問題については,従来の税金および社会保険とその一部としての自己負担分では,今後の社会保障制度としては支えきれない.したがって,自助努力としての自立投資の概念についての国民的合意形成が必要であろう」との指摘が行われた.
 他の委員からは,「縦割り行政の社会保障の考えからの脱却」「社会保障の財源として税と保険料の関係の議論は不可欠」「年金,医療,介護をバラバラに議論するのではなく,制度ごとの相互関連を考えた議論が必要」「社会保障のなかでの女性の位置付けを考え直すべき」などの意見が出された.
 今後は,月一回のペースで会議を開催し,三月ごろまでに社会保障全体について意見交換し,その後,若年世代からのヒアリングを行い,論点の整理を行うことにしている.今秋に向けて意見を取りまとめる予定である.
 次回は,「社会保障の現状と課題」をテーマに議論する予定となっており,日医から一月十九日に答申された医療政策会議の最終報告書を資料として提出することになっている.

有識者会議委員

赤崎義則(鹿児島市長)阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所副所長)石 弘光(一橋大学学長)今井 敬(新日本製鉄会長)岩男壽美子(武蔵工業大学教授)◎貝塚啓明(中央大学教授)木村陽子(奈良女子大学助教授)京極高宣(日本社会事業大学学長)行天良雄(医事評論家)木幡美子(フジテレビアナウンサー)清家 篤(慶応義塾大学教授)袖井孝子(お茶の水女子大学教授)高木 剛(ゼンセン同盟会長)坪井栄孝(日本医師会長)中村博彦(全国老人福祉施設協議会長)堀田 力(弁護士)宮島 洋(東京大学教授)矢崎義雄(国立国際医療センター病院長)渡邊恒雄(読売新聞社長・主筆)

[五十音順・敬称略]  ◎印 座長


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