日医ニュース 第932号(平成12年7月5日)

「児童虐待の防止などに関する法律」公布
医師に早期発見の努力規定

 「児童虐待の防止等に関する法律」が,五月十七日に議員立法で成立した.この法律には,医師もかかわりがあるため,担当の雪下國雄常任理事に,法律の内容,児童虐待の現状,今後の日医の対応等について解説してもらった.

 「児童虐待の防止等に関する法律」は,急増する児童虐待に歯止めをかけ,児童を保護することを目的としており,法律の要旨は,児童に対する虐待の禁止,児童虐待の防止に関する国および地方公共団体の責務,児童虐待を受けた児童の保護のための措置等を定め,児童虐待の防止等に関する施策を促進することである.
 今回特筆されるべきことは,児童虐待の定義を明確にしたことである.第二条に四つ取り上げられているが,一つ目は,身体的な虐待,二つ目が性的虐待,三つ目がいわゆるネグレクト(無視)という,放置されたり,食事を与えられなかったりする虐待,四つ目は心理的虐待という分類になっている.
 さらに,医師に直接関係するものとしては,第五条で,児童虐待の早期発見の努力義務者として,学校の教職員,児童福祉施設の職員の他に,医師,保健婦,弁護士が規定された.
 また,第六条の一項では,児童虐待を受けた児童を発見した者は,すみやかに,これを児童福祉法第二十五条の規定により通告しなければならないとされている.これは,国民すべての義務である.そして,二項において,守秘義務に関する法律の規定の適用を受けないことが定められており,制約がなくなっている.
 通告する場所は,児童相談所または福祉事務所となっているが,今後,通告の増加に伴い,それだけの対応能力があるのか,また,専門的なカウンセラー等の人材確保など,いくつかの課題が残されている.

児童虐待の現状
 児童虐待は,近年,著しく増加している.警察庁の資料によれば,平成十一年中に児童虐待で検挙された件数が百二十件,検挙人員が百三十人,被害少年数が百二十四人,そのうち,死亡が四十五人.
 相談件数は,平成六年が百二十一件だったものが,十一年は九百二十四件と約八倍になっている.加害者は,実母が約四〇%,実父が二二・三%.母親と内縁関係にある者等が一九・二%,養・継父が一五・四%である.
 児童虐待の主な原因は,家庭環境に起因するものが多く,核家族による子育て不安,経済的困窮,家庭不和,離婚等と考えられる.また,平成十年の児童相談所への相談件数は六千九百三十二件でそのうち約六%が医療機関からの相談となっている.

今後の日医の対応
 坪井栄孝会長が委員として出席している「少子化への対応を推進する国民会議」の「国民的な広がりのある取組みの推進について」と題する取りまとめでは,子どもを産み育てやすい地域の環境整備を重要項目に挙げており,日医として多くの取り組みが盛り込まれているなかに,地域における子育て支援と児童虐待への取り組みがある.地域のネットワークのなかで守っていこうということだが,そこへ積極的に参加し,協力していくこととしている.
 具体的な対応は,日医の乳幼児保健検討委員会が中心となって検討し,「保育所・幼稚園園児の保健」の改訂版を三月に刊行したが,そのなかで「乳幼児虐待」について掲載している. 
 また,妊娠している時期からその地区の小児科の医師にかかりつけ医になってもらい,産婦人科医との連携を図りながら,子育てを支援するプレネイタル・ビジット(出産前小児保健指導事業)がある.これは,平成四年から国の補助事業として行われているが,平成十年度において,わずか六市で実施されているに過ぎない.今後,多くの地域で推進していただけるよう厚生省とともに,産婦人科,小児科の先生方と検討しているところである.
 このような取り組みにより,母親の育児不安を解消するなどして,子どもたちが虐待を受けることがないように,育児支援をしていくことがより重要であると考えている.
 この法律は,十一月末までに施行されるが,児童虐待を発見しやすい立場にある医師として,児童虐待の早期発見と通告について改めて認識していただきたい.


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