日医ニュース 第933号(平成12年7月20日)

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臨床研修制度について
─33年間のあゆみ─


 現行の医師の卒後臨床研修制度は,昭和四十三年(一九六八)の医師法改正により,いわゆる従来のインターン制度が廃止されたことによって,二年間の臨床研修の義務ではなく,努力義務となった.

インターン制度から現行制度へ

 インターン制度では,医科大学(医学部)を卒業後に医師国家受験資格を得るため,一年以上の診療および公衆衛生に関する実地修練を受けることを義務付けられていた.
 この制度は,昭和二十一年(一九四六)八月三十一日「国民医療法施行令」の一部改正によって創設されたもので,昭和二十三年(一九四八)七月三十日,医師法制定により規定された.
 当時の診療および公衆衛生に関する実地修練運用基準によれば,インターン制度の目的として,「所定の病院及び保健所において各科を巡回して行わせるものとし,病院における実地修練は,指導医の十分な監督のもと,その助手として勤務せしめ,専門に偏することなく診療全般にわたって修練を行わせ,おおむね日常遭遇する疾病について,一般医師として取り扱う場合の診療治療に必要な知識と技術とを体得させる他,保健所における実地修練は,実地修練者をして保健事業を通じて公衆衛生の実際を修得させるもの」とある.
 このインターン制度は,実地修練生の地位や身分の不安定,研修体制の不十分,生活の補償がない,修練病院に対する不十分な助成策などに問題があるとして,昭和四十三年(一九六八)五月十日に,現行の臨床研修制度が施行されるための医師法の改正案が成立し,同年五月十五日,改正医師法が公布・施行されたことによりインターン制度は廃止され,現行の新しい臨床研修制度が発足するに至った.
 この改正された医師法第十六条の二には,「医師は,免許を受けた後も,二年以上大学の医学部若しくは大学付置の研究所の附属施設である病院又は厚生大臣の指定する病院において,臨床研修を行うように努めるものとする」とあり,義務から努力義務規定となったのである.

現行制度の導入から制度改善への動き
―医科大学(医学部)における卒前教育との関連問題―

 現行の臨床研修制度は導入以来,そのあり方を巡っては,早い段階から種々の問題点が指摘されながら,今日に至っている.特に,医科大学(医学部)における卒前教育のなかでの臨床実習との関連において論議されてきた経緯がある.
 それは,現在の卒前の臨床実習が,医行為との関係から,医師として最低限必要な基本的臨床能力でさえ,身に付けることができないのではないかといわれている.
 最近では,医科大学(医学部)の卒前教育のなかに,自己開発型問題解決学習(problem-based learning tutorial : PBLチュートリアル学習)の導入をはじめ,診療参加型臨床実習(bed-side learning : BSLクリニカルクラークシップ)による臨床実習へと改善されており,また,技能評価において,客観的臨床能力試験(objective structured clinical examination : OSCE(オスキー))が行われるようになり,臨床実習の改善がなされてきている.
 確かに,そのような卒前の臨床実習の改善が行われているとはいえ,いまだ現行の卒直後の臨床研修制度には,多くの解決すべき問題が残されている.

臨床研修の必修化へ向けて

 平成六年十二月の医療関係者審議会臨床研修部会意見書中間まとめのなかで,卒後臨床研修の必修化について,初めて言及されている.
 その後,平成八年七月,同部会臨床研修検討小委員会から,必修化を含めた制度全般の抜本的改善の必要性の提言がなされた.
 平成十一年二月には,医療関係者審議会医師臨床研修部会において,「医師臨床研修の必修化について」という形で,論議の取りまとめが行われた.
 このなかでは,医師法の改正のみでなく,医療法とも関係する部分もあることから,医療審議会で検討され,医療保険制度や医療提供体制を含む医療制度の抜本改革という観点からの法改正が必要であるとして,法整備を図り,改正法案が前国会に提出された.
 しかし,国会が解散されたことで,法案は廃案となった.したがって,現段階においては,次期国会に新たに法改正提出のための手続きが行われるものと推察される.このことにより,今年度中には,医師臨床研修の必修化の問題は,法的には決着をみるわけであり,平成十六年度には施行される見通しとなっている.

臨床研修カリキュラムの内容
―患者中心の医療の実践ができる能力を身につける―

 臨床研修制度は,医科大学(医学部)の卒前教育の改善に伴い変化する制度であり,それに対応した臨床研修医のための研修カリキュラムが用意されている必要がある.
 そのカリキュラムは,すべての医師に必要とされる基本的臨床能力を身に付けるためのものとなっている.
 つまり,コミュニケーション能力をはじめ,インフォームド・コンセント能力,EBMに基づく診療技術の提供,チームの一員としてチーム医療を実践し得る能力,倫理観の醸成,診療録の完全記載ができる能力が身に付く臨床研修が行われる内容となっている.


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