日医ニュース 第933号(平成12年7月20日)

勤務医のひろば

健康寿命を考える


 古くから「医者の不養生」ということわざがあるが,実際,医師の平均寿命について,古川等は複合ワイブル分布モデルを用いて,日本人全体のワイブル分布とほとんど変わらないことを検証した.医師は,不養生でもなければ長寿でもない.寿命に関する限り,ただの平均的市民であり,医学の限界を暗示しているといわれている.
 日本は,男女共世界一の長寿国であることは事実であり,国民の健康・医療・年金・介護に対する関心は急速に高まってきている.例えば,寿命に関しても寝たきりや痴呆といった要介護状態になる前の自立して健康に暮らせる寿命,いわゆる健康寿命という考え方に注目が集まりつつある.
 厚生省の研究班が試算した,一九九五年の“介護を必要とせずに生きられる期間”,いわゆる平均自立期間は,米国ではactual life expectancy(活動的な平均寿命ともいう)は,六十五歳時で男性が十五年,女性が約十八年となっている.
 平均余命から平均自立期間を差し引いた値を平均要介護期間(注,同dependent life expectancy〈依存的な平均余命〉)と仮定した場合,一九九五年のこの値は男性一・五年,女性は二・六年となっている.
 現実に,勤務医が定年後(多くは六十五歳と推定),第二の人生をスタートしている.自分だけは人より長生きできると自負している医師たちが多いが,現実には少子化が進み,自分の子息が老後を看てくれる保証はない.
 今回の医療法改正で,特定患者でも九十日間を限度に包括医療となり,介護施設(老健施設・療養型病床群・老人病棟)でも経営的理由から転院せざるを得ない状況である.
 Single lifeになったとき,自分の老後の生活を自由に過ごせる方策を今から考える必要がある.社団法人有料老人ホーム協会によれば,全国に三百六十の施設があり,現在,その八〇%しか利用されておらず,家族等に負担をかけずに第三の人生を有意義に過ごすことができることも一考に値するものと考える.

(岐阜市民病院長 森矩尉)


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