日医ニュース 第935号(平成12年8月20日)
会員の窓
会員の皆さまの強い要望により,投稿欄「会員の窓」を設けることになりました.意見・提案などをご応募ください.
学校保健と小児科医
内海裕美(東京都・小石川医師会)
先日,日本小児科医会主催の「子どもの心研修会」に出席し,乳幼児期の心の発達から,不登校,いじめ,非行など,学童期,思春期にわたる問題とその取り組みについて,各専門家の意見を拝聴した.
小児の心と身体は一緒に発達するものであり,家庭,教育,社会の影響を強く受けている.乳幼児の小さな心にも周囲の環境は大きな影響を及ぼし,小児科医は,その小さな子どもの代弁者となり,解決を図ることが多々ある.昭和三十年代より問題になっている肥満,アレルギーも,あるいは,増え続ける不登校やいじめも,子どもの素質だけに原因を求めることはできない.
一方,最近,学校精神保健の場に精神科医の配置が考えられているが,児童精神科医のアドバイザーが加わることに異論はない.しかし,今,子どもたちが起こしている問題は,子どもたち自身の問題だろうか?子どもの問題として,治療者として介入することではなく,子どもの代弁者として学校保健にかかわれる人間はいないだろうか?研修会に参加しながら,そう考えたら,小児科医が子どもの代弁者であることに改めて気が付いた.
そうはいっても,残念なことに,学校医に占める小児科医の数は多くない.
日医学校医認定制度とかかりつけ医
田中 一(福岡県・福岡市医師会)
平成十二年三月の日本医師会学校保健委員会の答申によると,「日本医師会認定学校医制度について,六〇%を超える会員が,三〜五年内の導入に賛成している.また,その導入を前提として,本認定医が身に付けているべき知識の研修カリキュラムを選定すべき時がきていると判断される」と述べている.
認定学校医については,これまで時期尚早という意見が多かったが,ここにきて導入賛成意見が半数を超えてきた.
最近の学校における不登校,いじめ等の心の問題に対応するためには,一定のカリキュラムのもと,研修を受講した認定学校医でないとその対応は難しい.その意味からも,認定学校医制度並びに研修の導入は推進されるべきだと思う.また,研修は継続が必要であり,その更新には一定の単位の取得を考えてはいかがであろうか.
予防接種,乳幼児健診は集団から個別化の方向にある.いずれもかかりつけ医が,その子の状態を継続的に把握しているからというのが主な理由である.学童の健診も乳幼児期より学童期に向けての一貫した個別の健診体制が望ましいとすれば,かかりつけ医に学校医機能の一部を持たせるという考え方も出てくる.心の問題の早期対応にもなると思う.
少子化対策として学校医の活用を計る
小川 實(大阪府・東大阪市医師会)
政府・国を挙げての少子化対策は,育児支援事業への財政補助が中心であるが,併行して地域ぐるみの育児支援活動の重要性も叫ばれている.中央教育審議会は,平成十年十二月十一日に「少子化と教育に関する小委員会」を設置し,今回,「子どもは社会の宝」であり,「社会全体で子どもを育てていく」ことの重要性を述べた報告書をまとめた.
われわれ医師が,少子化と教育について,何らかの行動をとろうとする際,その場としては学校医活動が挙げられる.しかしながら,学校医活動に対する医師の意識レベルは低く,学校現場からの不満のなかで,「学校医不要論」も取りざたされている.
私自身,内科検診以外に入学式・卒業式・体育祭・保護者説明会などにも積極的に参加している.また,心臓検診事業を通じて,教育委員会や養教部会との連携を地区レベルで持つよう心掛けている.さらに,これらの活動の延長として,自院における患者向けの各種談話・交流会に幼稚園や小学校の関係者を講師として招くことで,学校医活動の拡がりを目指している.
日医の学校医講習会においても,「学校医認定制」と「定年制」に関し,種々討議が重ねられたが,「総論賛成,各論慎重」論が支配的であった.われわれ医師は,少子化と教育における地域の重要性を認識し,地域の子育て支援の一環として,自院・学校でできることから始めることが,まず重要なことと考える.
学校健診の見直しを
杉浦壽康(愛知県・岡崎市医師会)
小児科医として小学校の校医となって二十年になる.開業の傍ら校医としての責務を果たしてきたが,いつもこれでよいのかと疑問を抱きながら歳月が過ぎた.
近年,予防接種が「集団」から「個別」になり,いわゆる感染症新法も集団防衛から個人防衛の考えが強く打ち出され,衛生や予防に関する基本的な考えが変わった.
校医として悩み,疑問に思っていたことは,「健診業務」の意義である.常勤でないため,児童一人ひとりの健康状態を毎日観察することはできない.仮に一カ月に一度あるいは一週に一度学校へ行って,児童の様子を見たとしても,果たしてどれほどの健康管理ができるだろうか.また,これまで,家族(親)・本人・教師(担任や養護教諭)がまったく気付かなかった児童の健康上の重大な問題を,健診で初めて発見したという経験は記憶にない.
こうして見ると,校医の職務の一つとしての「健診」の意義・内容・方法について見直す必要があるのではないかと思う.予防・衛生についての考えが集団から個人に変わっている現在,学校健診も校医による「集団健診」から,かかりつけ医による「個別健診」にして,健康を守るのは「個人」であるという意識に変えるべきではないだろうか.そのうえで,校医はこれまで以上に健康教育・環境管理に力を入れることにより,学校保健のいっそうの充実を図ることができるのではないだろうか.
原 稿 募 集
テーマ 「がん検診」「救急医療」など
字数 600字以内(本文のみ,字数厳守)
匿名・仮名等はご遠慮ください.
原稿の採否は広報委員会におまかせください.
原稿は,タイトル・氏名・所属医師会・電話番号を明記のうえ,日医広報課「会員の窓」係宛郵送もしくはFAXでお寄せください.
日医ニュース目次へ