日医ニュース 第935号(平成12年8月20日)

勤務医のひろば

医療保険の卒前教育を望む

 「総合病院の勤務医はどうあるべきか」を論ずるなかで,塩谷泰一坂出市立病院長の「こんな勤務医はいらない」八カ条には実に興味を引かれる.ここに改めて披露したい.
(1)人間としての基本的マナーに乏しい
(2)規則・時間を守れない
(3)協調性に乏しい
(4)患者に対して誠実でない
(5)技術・知識の向上に意欲がない
(6)総合的に患者を診られない
(7)反省心がなく,謙虚でない
(8)医療保険制度を理解しない
 このほとんどは,「良き勤務医であるためには,良き医師であり,その前に人格をもった良き人間でありなさい」といっているが,ごくごく当たり前のことで論をまたない.このなかで,「患者を総合的に(全人的に)診て,保険医としての自覚を持ちなさい」とする項目は,特に,卒業したばかりの医師には留意してもらいたい.
 医学は日進月歩で,医療はますます専門化されている.大学での医学教育はその最先端をいき,総合病院に集まる若き医師たちの興味は,専門医としての技量を身に付けることに終始し,その傾向は強くなる一方である.これが,医学の進歩に大きく貢献してきたのは確かである.
 しかし,片寄り過ぎているのも否めない事実で,これは,現在の医学部における卒前教育の弊害といってもよいであろう.過去には私もそうであったが,卒業したての医師は医療保険に対しては無知である.先輩の診療を見ようみまねで,医療保険を覚えていくのが現状である.卒前教育のなかに,医療経済的効率についての教育が急がれるのではないかと痛感する.
 もう一つの項目の「協調性」であるが,専門化された現代医学において,勤務医はグループ診療のなかの一人である.そこには,同僚,他科との協調性が必要になる.オーケストラのなかの一団員である.どの科が欠けても,一つの科が突出していても,総合病院としての価値は薄れる.他科との協調性が得られて,はじめて患者さんが良質な医療を受けられるのではなかろうか.

(市立札幌病院理事 上田峻弘)


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