日医ニュース 第936号(平成12年9月5日)

韓国の医療が異常事態に
坪井会長が韓国医師会長に書簡を送る


 韓国では戦後,薬剤師の任意調剤等が法的,制度的に認められ,直接,薬局で医薬品を何の制約もなく自由に購入できるようになった.その結果,医師不足を背景に薬剤師が事実上,一次診療に携わることとなり,このことが,一九六〇年代以降,医薬品の誤用・乱用問題を引き起こした.
 最近になり,医療費に占める薬剤費の割合が三〇%を超え,医薬分業の実施を通じての医療費削減が求められた.そこで,一九九八年誕生した現韓国政府は,医薬分業の強制実施を採択し,当初,段階的に実施するはずの実施法施策を無視して,一九九九年七月から全面実施の方針を発表した.
 これに対して,韓国医師会は,医薬分業施行時期の一年延長の請願を提出.一九九九年十二月薬事法改正案が成立し,二〇〇〇年七月から実施されることとなった.しかし,その間,政府が市民団体の提案を基礎にする施策を採用したため,韓国医師会はこれに強硬に反発した.
 こうした背景のもとで,正しい医薬分業を実施すべきとの立場をとる韓国医師会は,本年六月に入り,決起大会を開催し,二十日には全国の医療機関が廃業,二十三日には全国の医学部教授が辞表を提出するなど実力行使に出た.救急を除くすべての医療機関が機能停止するという非常事態にあって,医師側は六月二十六日,廃業撤廃を発表したが,七月に入り検察当局は医師会長他数名の役員を拘束した.
 八月,政府は,対応策として処方料の六三%引き上げなど若干譲歩した案を提出したが,医師側はこれを容認せず,再度多くの医療機関,大学教授,研修医,医科大学生が廃業,休業ないし活動を停止するという強硬手段を取っており(八月十九日以降,開業医は医療活動を再開),抜本的解決はいまだ先という状態にある.
 韓国医師会の医薬分業についての基本的考えは,薬剤師による任意調剤の根絶と事前の医師の同意のない処方変更を禁止することである.また,医薬分業の強制化による診療報酬の確保の問題,そして,医師が使命とする医療本来の領域と薬剤師の責任範囲との明確な区別,医学部定員の問題など,この件は,韓国の医療全体の問題に深くかかわる内容を含んでいる.
 このような状況のもとで,坪井栄孝会長は,逮捕拘留中(八月十八日現在保釈)の金在正韓国医師会長に対して,韓国の医療事情を憂慮し,一刻も早い正常化を祈念した書簡を送った.

平成12年8月16日

 韓国医師会長 金 在 正 先生

 貴職が,独占禁止法と医療法違反の容疑で逮捕拘束されたとの報を聞いて深い憂慮の念を抱いております.また,本会は隣国として,また類似した医療保険制度を有する国の医師会として,今回の貴国の情勢を極めて心配しております.
 医療は,国民の健康を守るためのものであり,医師こそがその使命を遂行していく先頭に立たねばならないことは当然のことであります.それだけにヘルスケアにおいては,医師の権利と独立性の重要さは最優先して配慮されねばならないことであります.貴職が率いる韓国医師会が,長年その任を全うしてきたことは,貴医師会の文名誉会長が副議長を努める世界医師会を通じて周知の事実であります.
 逮捕拘留されている貴職を含めた韓国医師会の役員の先生方が,一刻も早く釈放されることを切に望みます.貴職の勇気ある行動と貴会の結束により,このような事態が早急に解決されるよう心から祈念いたします.

日本医師会長 坪 井 栄 孝


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