日医ニュース 第943号(平成12年12月20日)

会員の窓

会員の皆様の強い要望により,投稿欄「会員の窓」を設けることになりました.意見・提案などをご応募ください.


救急搬送体制の整備を
畠中卓士(高知県・高知市医師会)

 救急医療体制の整備は急務であるが,見落とされがちなのは救急患者搬送体制であり,共に検討していく必要がある.
 現在の救急車の活動範囲は,消防本部の管轄範囲内であり,市町村(広域連合事務組合を含む)の範囲を超えない.一方で,保健医療計画の二次医療圏は複数の市町村を含んでいる場合が多く,そのなかに複数の消防本部を含んでいることが多い.したがって,二次医療圏域内での中継搬送が必要になることもある.
 救急車は最寄の医療機関に搬送することが原則であるとの理由で,救命救急センターに一次・二次救急患者が搬送される.また,傷病者や家族の希望も優先され,歩いて救急車から降りられるような一次救急患者でも,救命救急センターに搬送される.これでは,救命救急センターも本来の三次救急業務に支障が出る.
 一方,転院搬送には医師の同乗が必要とされている.病院に入院している患者の容態が急変し,高次の医療機関に搬送する場合はそれでよいが,診療所に救急車で搬送されてきた患者を診察し,その結果,二次,三次の病院に搬送しなければならない場合は,診療所の医師が同乗しないといけなくなる.医師が一人の診療所の場合,一般診療に支障が出ることになる.
 移植医療の臓器搬送も一般の交通機関,チャーター機,防災ヘリ等とさまざまな方法がとられ,費用の負担も問題である.
 臓器搬送体制を含めた一次から三次までの救急搬送システムの整備が急務である.

がん検診“一般財源化のその後”
竹内 義員(香川県・高松市医師会)

 がん検診は,ターニングポイントを迎えている.胃がん検診についてみても,一九六〇年ごろに開発をみた胃間接撮影装置搭載の間接X線法を主体とした検診方式の確立と年間六百万人に及ぶ受診者数が,胃がん死の減少化に寄与しているとされ,その有効性も認められている.
 一九八三年に施行された老健法は,子宮がん・肺がん・乳がん等を加え,強力な検診をすすめるうえで大きな威力を発揮,検診目標三〇%受診を打ち出して,がん死の半減化を立案させた.
 しかるに一九九七年,厚生省は突如がん検診助成金の廃止,一般財源化の措置を実施,自治体もこれに追従,実施主体の市町村も経費負担の関係から及び腰の状態となり,介護保険導入が言質となってがん検診業務の後退化をもたらした.
 結果として,受診率は一三〜一四%と低迷し,前記目標にはほど遠い.しかし,肺がん死の上昇と胃がん死の減少は,がん死の中に占める疾患別頻度の変化を来たし,久道班の報告にみるごとく,胃がん・子宮がん・大腸がんの有効性に対し,肺がん・乳がんの再検討を迫られる結果である.老化が最大の発症原たるがんはますます増加するであろうし,救命効果に寄与するがん検診はさらに押し進める必要がある.方式論の再検討も,この際重要で,例えば,ペプシノーゲン法の胃がん検診への参入方法,乳がん検診への超音波法の導入のあり方等々,明確な方式論の構築が急務であろう.

がん検診を考える
渋谷大助(宮城県・仙台市医師会)

 がん検診が老健法から外れて一般財源化され,がん検診事業に携わる者にとっては逆風が吹き荒れている今日この頃である.
 都市化が進み,集団検診に抵抗を感じる人たちも増えてきたようだ.個別検診あるいは総合検診化は時代の流れであり,それへの対応が必要である.
 しかし,“近藤論文”の影響や介護保険の導入で,最近,がん検診に対する関心が薄れてきていることが気にかかる.
 がんのリスクファクターについて,喫煙の重要性が指摘されているが,非喫煙者に対する喫煙者のがんによる死亡の危険性は,全がんでたかだか一・六五倍であるが,検診をまったく受けない人が“がん”で死亡する危険は,検診を毎年受けている人の三倍というデータがある.
 検診を受けないことが,がん死亡においては最大のリスクファクターであるという事実は,以外に知られていないのではなかろうか.
 がん予防のためと称して,効果のはっきりしないサプリメントや民間療法に大金を払い,神社仏閣を参拝した揚げ句,温泉で宴会を開くことにはお金をかけても,検診のためにはお金をかけたがらない風潮は,どう理解したらよいのであろう.
 禁煙などの生活習慣の改善によるがん予防の知識の普及とともに,がん検診の有効性とその必要性を訴え,啓発活動を強化することがわれわれの責務であると痛感している.

日本の救急医療
石原 哲(東京都・向島医師会)

 慢性期医療の改革と共に,長年の懸案であった介護保険制度がスタートし,にわかに急性期医療のあり方が問題となっている.国民の救急医療に対するニーズが高まり,とりあえずの救急医療ではなく,迅速・的確な診断治療が求められている.大都市においては,この傾向が強く,救急車の要請も急増しているため,これに対応すべく厚生省は,救命救急センター(三次救急医療)の機能・質の評価をスタートさせた.二次救急医療についても,その利便性と医療の質が問われている.
 厚生省の救急医療体制問題検討会は,二次救急医療体制を今までの消防法における救急告示制度と厚生省補助事業の病院群輪番制度の一元化を打ち出した.さらに,医療法改正に伴い,保険医療計画に救急医療が必須記載事項となった.また,各都道府県においては,二次医療圏単位での救急医療協議会を設置し,救急医療体制の検討が必要とされた.今まさに,救急患者の大半をカバーする二次救急病院こそ,質の向上が必要である.
 しかし,二次救急医療機関の民間病院の現状は厳しく,休日夜間の救急医療の質の確保ができない,不採算である,設備投資ができないこと─等を理由に診療所や療養型病床に転換する等々,救急告示を撤回する医療機関が増加している.二次救急医療が地方自治体に移管されているために,各都道府県の行政対応が大いに問われるところであろう.


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