日医ニュース 第944号(平成13年1月5日)
武見プログラムおよびフェローの成果を報告 |
「国際保健と医の倫理に関するシンポジウム」が,昨年12月1,2日の2日間,日医会館大講堂で開催され,ハーバード大学公衆衛生大学院の武見プログラムで学んだフェローが世界各国から集まり,その成果を発表した. |
今回のシンポジウム(日医,ハーバード大学公衆衛生大学院主催,日本製薬工業協会,JICA協賛)は,一九八三年に武見太郎元会長の提唱により,ハーバード大学公衆衛生大学院国際保健のなかに設置された,武見プログラムが果たしてきた役割を国内に広く周知するとともに,現在の国際保健分野で活躍する多くのフェローが一堂に集い,情報交換をする場を設けることを大きな目的としている.
初日冒頭,坪井栄孝会長は,今回のシンポジウムを通じて,武見プログラムおよびフェローの実態ならびに成果を当プログラムを支えている国内の関係者に披露し,さらに,当プログラムが二十一世紀においてもその意義が高まり,世界規模での国際保健に貢献できるよう,日医として継続して支援していくという内容のあいさつを行った.
引き続き,バリー・ブルーム・ハーバード大学公衆衛生大学院学院長が,「地球規模の保健研究における倫理に関する諸問題」と題して,特別講演を行った.
そこでは,先進国において,あるいは,途上国においてヒトを対象とした医学研究が行われる場合,普遍的に適用し得る倫理基準に関する懸念があることを表明.そして,今日の医学・医療の進歩が,先進国の人々にのみ利益をもたらすものとなってしまっており,このままの状態が推移すれば,先進国と途上国の格差をさらに増大しかねないことを指摘し,今後は,医学・医療の発展から生み出される利益を途上国の人々も享受することができるように,個々の国のレベルを超えた地球規模での保健研究体制の構築が不可欠であることを説いた.
二日目のシンポジウムでは,武見プログラムを指導するマイケル・ライシュハーバード大学公衆衛生大学院教授により,「公衆衛生における倫理に基づく分析」と題する基調講演が行われた.
ここでは,公衆衛生における意思決定に関する主な根本思想を理解するための概念的なアプローチとして,結果を重視する功利主義,権利と機会を重視する自由主義,そして,公衆の価値を重視する共同社会主義という三つの倫理的議論が取り上げられた.さらに,倫理観がなければ国際保健は行えず,価値観の対立が適切な政策なしに起こることが多いので,国際保健の分野では倫理的な側面に目を転じる必要があることを強調した.
つづいて,午前と午後の二つのセッションに分かれ,武見フェローによる講演八題(インド・マレーシア・台湾・日本・ナイジェリア・南アフリカ共和国・タイ・韓国)および各講演に対し,十人のフェローがそれぞれコメンテーターとして意見を述べた.また,会場との質疑応答も活発に行われた.
最後に,座長総括として,小泉明副会長は,「日本は,皆保険制度を実施しているが,国,地域によって,制度は大きく異なっている.この状況を踏まえ,今後はよりいっそう情報交換を行い,必要な事項を一般通則として普遍化し,さらに個別に適用できるよう努めることが大切である」と述べた.
全体の締めくくりとして,ライシュ教授は,倫理の問題は公衆衛生の随所に見られるが,倫理が技術に追いつかない現状があることを指摘した.そして,今回のシンポジウムが実り多いものであり,二十一世紀を見据えた国際保健の分野に,必ずや貢献するものであろうとの期待を述べた.
最後に,当シンポジウムの開催と武見プログラムへの支援に対する感謝の意を表明し,閉会となった.