日医ニュース 第948号(平成13年3月5日)
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外来患者の破傷風予防接種の勧め 海老沢功(茨城県・真壁郡市医師会) |
破傷風は,予防接種の対象とすべき疾患で,治療の対象とすべきでないと強調されている.現在,日本の破傷風死亡数は年間二十人前後で,患者数は百名程度いるものと推定される.
近年の破傷風患者は,ほとんど六十歳以上の高齢者である.昨年,筆者が東京都内で相談を受けた患者は七十三歳と九十六歳で,後者は自分が今まで診た破傷風患者約五百五十人中,最高齢であった.
破傷風は,インフルエンザのように新聞種にならないので,その予防接種は推進しにくい.自分は二十年以上も前から,高血圧,糖尿病,高脂血症など慢性疾患で通院する患者には,破傷風治療の困難さを教え,予防接種の必要性を日ごろ説明している.
そして,継続して通院する者には,破傷風の予防接種を勧め,任意接種で有料であることを念を押す.筆者が開業している地域には,破傷風罹患経験あるいは死亡例がいるので,その予防接種を断るものはほとんどいない.破傷風予防接種完了者の病歴には,その旨大きな判を押しておく.
彼らが,軽い外傷を受けてきたときは,適宜な外科処置をするだけで,破傷風に関しては安心していられる.外傷患者に破傷風対策を何もとらず,発病した患者に損害賠償の和解金として,千二百万円支払う判決を受けた事例が忘れられない.破傷風非免疫外傷患者には,破傷風対策をとった証として,少なくともトキソイドを接種しておくことを勧める.
重要な今一つの健康教育 知念昭男(東京都・北多摩医師会) |
人が健やかに生きるためには,多種・多様な健康教育が必要で,従来から実施されている身心に関するものだけでは不十分である.
すなわち,皆保険下の日本の医療では,社会,経済と密接な関係にあるそのシステムについての教育も重要となる.
医療はいつの時代でも,患者と医師の相互信頼が基本で,医師は今日,インフォームド・コンセントを軸に関係保持に努力している.しかし,これを阻害する多くの外的因子が存在しており,その最大のものが保険医療経済システムに関する国民の理解不足と錯誤にある.保険者の職務は,被保険者に対し,給付内容費用等に関する教育・指導の義務を負っているが,表在的で集団的でしかない.
規制緩和を中心とする自由主義経済社会の日本でただ一つ,規制強化の国家統制経済システムの医療保険の実体を開示し,教育しないかぎり,医療現場での齟齬と軋轢は必然となる.
今後,国の医療費削減策で医療の質と量の低下は免れず,ここで展開される制限医療と費用負担の増加はまったく医師がかかわるものでないことを国民に周知徹底しなければ,相互信頼の確保は困難で,医療は衰退,崩壊する.
国は,日本の医療システムの全能者としての責務を果たすべく,国民が理解し同意しうる手法をもって,今は最重要な,そして,医療側では行えない健康関連教育を早急に実施すべきで,現行のような医療側への転嫁は許されない.
禁煙の恩恵 伊藤文利(鳥取県・中部医師会) |
食後の一時,隣席にはうまそうにたばこをくゆらす人がいる.その紫煙と臭い匂いが,遠慮,会釈なくわれわれに降りそそいでも,当人は素知らぬ顔,己が至福を満喫しているようだ.
私も二十数年前まで,このようにして他人様にご迷惑を掛け続けていたのかと,慚愧の念に堪えない.それまで何十回禁煙を試みたことか,わが身の意志の弱さを痛感しながら暮らしたあのころが懐かしい.それに比べ,今や少数派に転落し,嫌われ,肩身の狭い思いをしながらでも吸い続ける人を見ると,その意志の強さに感心する.
わが周辺の喫煙医師には,さらに畏敬の念を抱きたくなる.喫煙の害は百も承知だが,それでもやめない.そして,反抗期の子どものようにうそぶく.「俺は,肺がんで死ねば本望だ」「非喫煙者でも,肺がんになる人がいる」「スモーカーにも人権がある」などなど.思い浮かべると,あの医師会長さん,あの病院長さん,あの医師,あの市長や町長さんなどなど,周囲には喫煙強行派のエライ方々が,たくさんおられる.彼らの共通点は,不思議にも謹厳実直,頑固一徹の理知的紳士ばかり.
ある学術講演会で,呼吸器専門のT大内科教授は,「禁煙と分煙は,まず,組織トップが率先すれば,必ず成功する」と強調されたのを思い出す.私の禁煙を最も喜んだのは,小院職員と愚妻であったが,最も恩恵を受けたのは,恥ずかしながら私自身であると確信する.
喫煙のメリットとデメリットについて 多田 學(島根県・島根医科大学医師会) |
わが国においても少なくとも,約三十年ほど前から喫煙が直接・間接を含め,健康へのデメリットの影響が大きく叫ばれるようになっている.最近の喫煙率では,二十代の女性のみの喫煙率が上昇しているが,他の年代では,すべて喫煙率が急激に減少している.
喫煙のメリットを論ずるとき,ニコチンの強心剤的作用により,一時的に休んだ気分(たばこする)になったり,若い女性はスリムの維持がメリットだと考えられている.一方,身体的には全身を巡る血液中のヘモグロビンによって,酸素や栄養を全身へ運搬する役割が大きな意味を持っている.しかし,その喫煙時のヘモグロビンと一酸化炭素の結合力は,ヘモグロビンと酸素の結合力の二百五十〜三百倍である.その結果,スリムの面からみると,同じ食事をしていても肥満しないことになる.そして,身体にとってメリットのない一酸化炭素ヘモグロビンが,一定量循環していることを認識すべきである.
デメリットの代表的なものに,喫煙時の煙に含まれる「タール成分」には,多くの発がん物質が含まれており,その影響は,喫煙する本人はもちろんのこと,同室の人や周囲の人たち(間接喫煙)の健康への悪影響は,程度の差こそあれ,存在することになる.限られた紙面で述べたメリットとデメリットの内容は,それなりに各個人が十分に考えるべきであり,人間の共存社会で他人に対する健康への悪影響を重視すべきことは,当然である.