日医ニュース 第949号(平成13年3月20日)

会員の窓


禁煙対策へ積極的対応を
大橋勝英(愛媛県・新居浜市医師会)

 平成十二年三月五日付の日医ニュースの「視点」で「たばこ対策の推進を」,五月二十三日付の日医FAXニュースでは,標記の題で医師会・医師の積極的取り組み等が述べられている.この二月五日付の日医ニュースでも,トップに「坪井会長,禁煙キャンペーン実施を宣言」とあり,日医の姿勢に賛意を表したい.
 喫煙の有害性や社会的諸問題は,(1)肺がんをはじめとする関連疾患,(2)受動喫煙,(3)女性・妊婦の健康問題,(4)児童・生徒の喫煙対策,(5)ニコチン依存症─などにある.これらの病態生理や煙の成分について詳しい医師は少ない.ダイオキシンも含まれ,糖尿病や歯周病にもリスクが増大するとの最近の知見である.
 がんや生活習慣病の約三分の一,肺がんの約七割が喫煙に起因するという記事や書物は多い.「予防は医学の王道」という,一次予防の重要性という見地からすれば,身近な喫煙対策こそが肝心であり,医師はたばこの諸問題について勉強し,知識を身につけなければならないのではないか.喫煙者の六〜七割に禁煙願望がある.ならば,嗜好品とはいえないのではないか.あっても,「有害な嗜好品」ということになる.
 職場も分煙から禁煙に向かっている.病院もそうあらねばならない.WHO,厚生労働省,世界肺癌学会,日医など,各組織を挙げて禁煙による健康政策を提唱している.今や医師は,これらにしっかり目を向けなければならない時代といえよう.

ママたばこ吸わないでね
石上新平(千葉県・銚子市医師会)

 「ママたばこ吸わないでね」というポスターを拝見したことがある.これは,ある製薬会社のポスターである.
 この言葉が気になり,診察室に入ってくる患者さんのお母様の衣服から,たばこの臭いがすると,「たばこをやめましょう」といってしまうのである.お母様方は,何をいわれているのか分からず,ただ聞いている.理由をいわない方が悪いが,お母様方もたばこを吸っているのは悪いと思っているのか,返答もない.
 たばこを吸われているお母様が診察室に入ってこられると,たばこを吸わない私には,衣服に付いているたばこの臭いで,吸っているかどうかすぐに分かる.たばこの噂が評判になり,気が付くと待合室の患者さんの数が少なくなってきた.
 私は,小児科医である.開業して七年目になり,ここまで順調にきていたのが,大きなお世話の一言から患者さんが逃げていくのである.
 私は,どうしても受動喫煙は許せず,「たばこを吸いたいときは,ホタル族でお願いします.部屋の中や車の中に子どもがいるときは,絶対に吸わないように」といっているのだが,分かってくれない.
 その後は,受動喫煙の話,お母様が吸われたたばこの煙をお子様が吸うとゼイゼイになりやすくなる,肺がんにお子様は罹りやすくなるなどの話を,禁煙の他に付け加えるようになってからは,お母様方とも理解し合えるようになってきたのである.

喫煙と女性
八田賢明(千葉県・松戸市医師会)

 喫煙が健康に良くないことは,誰でも知っている.
 しかし,喫煙は個人の嗜好の問題で,ひとつの文化であると主張されれば,その気持ちを一概に無視することもできない.禁煙運動が,一筋縄でいかない所以(ゆえん)でもある.
 だが,タバコの副流煙が,喫煙者が吸い込む主流煙より,はるかに有害物質を含んでいて,周囲の非喫煙者や乳幼児など,次世代を担う人々にまで悪影響を与えるとなると,「喫煙は自分の勝手」などのいい分は通用しなくなるだろう.アメリカでは,副流煙の研究から最終的に副流煙(環境タバコ煙)=A級発がん物質と断定している.
 ところで,最近,若い女性の喫煙が目立つようになってきた.「新しい生命」に影響を与えるという点では,男性と違ったもう一つのリスクがあることを自覚すべきである.欧米では,喫煙歴のある女性が妊娠中に禁煙しても,胎児には少なからず影響が出るという,衝撃的な論文も出ている.
 また,今日的話題として,若い女性に子宮頚がんが増加しているが,これにも女性の喫煙が関与しているという.
 さらに,経口避妊薬(ピル)も若い女性の間では不人気で,ここにも「喫煙」が影を落としている.ピル服用には,非喫煙が条件になっているからである.
「喫煙」に関するこのたびの日医キャンペーンは,国民にどう受け止められるか,注目されるところである.

専門家の義務
吉田 勤(大阪府・平野区医師会)

 専門知識が絶対に必要とされる医療界で,専門家の意見が軽視されるようになった.高名な医師が患者の命ではなく,企業の利益を守ろうとしたのだ.さらに,今まで闇に葬られていた医療事故の数々が明るみに出だした.そのために,国民から医師任せにしていると,殺されかねないと思われるようになった.先人の努力によって築かれた信頼感と権威が,これほど簡単に失われるとは,誰も想像すらしなかった.
 国民の医師に対する厳しい選別が始まろうとしている.どのような世界にも競争原理が取り入れられ,勝者と敗者が出現している.医師の世界も例外ではあり得ない.日本企業が,アメリカ企業に特許権侵害で訴えられ敗訴した際,陪審員が素人であったから負けたのだと,日本企業幹部からずいぶん聞かされた.しかし,医療事故の数々を考えると,むしろ,陪審員制度は専門家を愚行から守る制度であると思い知らされる.この制度は,健全な常識の存在を前提に,専門家といえども常識という世間の評価にさらされ,鍛えられるべきだという考えに基づいている.
 現在,常識とされている概念の多くが,かつて非常識であったことを考えると,専門家の費やした多大の苦心がうかがえる.専門家は,国民の意見を軽視してはならないが,もし,国民が誤っているのであれば,国民を重大な被害から守るためにも,繰り返し説明し,国民に理解を求める労を惜しんではなるまい.日本国民は,決して愚かではないと確信している.


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