日医ニュース 第952号(平成13年5月5日)
|
|
平成十三年三月三十日に政府与党から社会保障改革大綱が出された.これは,先の総理の私的諮問機関である「社会保障の在り方について考える有識者会議」から出された「二十一世紀に向けての社会保障」と題する報告書をたたき台として,ほぼ同様な理念を踏襲したものとなっている.
そもそも有識者会議からの報告書は,旧厚生省の作文と同一で,しかも具体性がないために,マスメディアの多くが批判したものであった.
報告書の作成は官指名の委員で構成される審議会が携わるが,問題は審議会の構成メンバーにあり,官主導の内容に陥りやすい.
また,行政改革の一環として,省庁再編が行われ,一見,官がスリム化したかに見えるが,内閣府の創設により,官の力が増し,官主導の施策が目立ち始めている.
大綱の要旨は,少子高齢化のスピードを見誤った官の不見識に加え,失政による財政赤字を急遽,国民,特に,高齢者への負担増および,ことさら医療費抑制策に特化させたものに過ぎない.
さらに,大綱の序文では,社会保障を国民が自立して尊厳を持って生きることができるように支援するための,セーフティネットと位置付けている.しかしながら,セーフティネットとは,むしろ最低限度の保障として,生活保護者を対象としたものであり,大綱に記されているごとき,自立して尊厳を持って生きるためのものではあり得ない.
詭弁そのものである.
医療をはじめとする社会保障や教育という社会的共通資本は,国民が人間らしく生きることを守るためにある.
また,改革の基本的な考え方に,老人医療費が経済の動向と大きく乖離しないよう,その伸びを抑制するとあるが,財政の都合に合わせ,官が日和見的に調整すべき筋合いのものではない.
高齢者すべてが弱者ではないとはいえ,無に等しい預金金利,流動的な年金政策,介護に対する基盤整備の不足,それに加えての医療費の自己負担増で将来設計が立たずにいる.少なくとも,老後の保障を約束したうえで,負担を提示するのが筋であろう.
社会保障の基本理念は,「ゆりかごから墓場まで」を国民が安心して生きることにある.
国が社会保障制度をどのように位置付け,国家としていかに取り組んでいくかという具体的方策を今こそ,政治が国民に明確に示すべき時である.
新内閣に期待したい.