日医ニュース 第953号(平成13年5月20日)
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日医の「医療機関(通報)における子ども虐待」のアンケート調査によると,虐待を受ける子どものなかで,〇〜三歳児未満は,平成十一年度厚生省報告の全国集計で二一%であるのに比し,医療機関の集計では何と五四%と高率である.特に,〇歳児が五六%と半数を超え,さらにそのうち六カ月未満児が八〇%を占めている.
〇歳から三歳児の身体的虐待の種類別分布をみると,三七%が頭部損傷で,そのなかで特に〇歳児が,八一%と大多数を占めている.さらに頭部損傷のうちの五五%が頭蓋内出血で占められ,そこにシェイキングベビーと診断されている七例を加えると,何と六三%が硬膜下血腫を主体とする頭蓋内出血であることには驚かされる.
「シェイキングベビー」とは,「乳児揺さぶり症候群」と呼ばれるもので,乳児の頭が強く揺さぶられることによって頭蓋内損傷を発生し,硬膜下血腫や網膜出血を起こし,脳に重大な障害(後遺症)を残したり,死にいたらしめるものである.これは,頭蓋内構造が十分完成していない生後六カ月くらいまでの乳児に発生すると予測されるが,今回の調査の症例のなかでも〇歳児が七例,一歳児が三例報告されている.それほど珍しいものでもないことを認識し,著明な外傷もないのに意識障害のあるような乳幼児については,眼球や眼底の観察,硬膜下血腫の精査が必要である.
その他の身体的虐待では,打撲・創傷,骨折,火(熱)傷,出血等多様であるが,一般的には新旧混在するものが多発している特徴がある.骨折も多発性で新旧混存するものが多いが,一歳未満の長骨の骨折は通常ではあまり見られないと考えて良い.
〇〜三歳児の身体的虐待については,這い這いやおすわり,立ちあがり,歩行開始等の運動発達過程や,筋力・運動量・運動強度の増強過程から考えられない部位の頭蓋骨々折,左右両側に及ぶ肋骨骨折,長骨の捻転骨折等は虐待を疑わなければならない.
医療機関での子どもの虐待防止は,特に〇〜三歳児にピントをあてた早期発見が最も重要である.
まだ調査の途中であるが,引き続き実地に対応した医師の詳細な報告を待ち,さらに十分な検討を加え,対応策をまとめるとともに,特徴的な症例を掲載し,マニュアル作りを急ぎたいと考えている.
医師が診察室での活用はもとより,地域の虐待防止ネットワークに積極的に参加して,アドバイザーとして適切な進言ができるために役立てていただきたいと思う.