喫煙者は,肺がんの発生確率が非喫煙者に比し高いといわれる.喫煙は,燃焼の排気を直接吸い込むのであり,排気のなかのタール成分に発がん作用があることは間違いないだろう.
喫煙の害は,まだまだある.喫煙者は,血中ビタミンC濃度が低い.これは,吸収したNO2がビタミンCを破壊するからだという,外国の研究の紹介記事を見た.NO2は,体内で酸化作用の強い活性酸素を放出する.LDLの酸化は,動脈硬化につながる.
微小循環を研究している友人の話では,喫煙者は,たばこの排ガスを吸って慢性一酸化炭素中毒状態にあり,一酸化炭素ヘモグロビンの無力を補うため,高ヘマトクリット状態となって血液の粘性が高まる.そのわりに酸素運搬能力が低いから,高粘性の血液が急速で循環する必要があり,血管内壁のずり応力が高まる.それによって,発生確率が高まる血管内壁の損傷は,血栓を誘発する.
日常の臨床でも,自然流産の妊婦に喫煙者が多いという印象を強く持っている.
以上のように,喫煙は,寿命を縮める多くの要素を人体に与え続ける.喫煙者の平均寿命を検討すれば,多くの人を納得させるデータが得られるはずである.ただし,通常の平均寿命は乳幼児死亡まで含まれるから,年齢を限定し,例えば三十歳以上の死亡年齢の平均値を,喫煙者と非喫煙者とでそれぞれ算出できたら良いと思う.
たばこ副流煙対策を急げ
宮本順伯(東京都・新宿区医師会)
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非常に残念なことであるが,国民はたばこの具体的な弊害については,ほとんど知らされていない.無知であるがゆえに,喫煙者は自分なりの理屈で喫煙行為を正当化しようとする.女性や子どもの多いレストランや喫茶店でも,必ずたばこを吸う者がおり,その行為が周りの人の健康を害し,不快にする迷惑行為であるとの認識がまったくない.
医師なら承知していることだが,たばこを吸わない人の受ける副流煙は,喫煙者の主流煙に比べ毒性が強く,ニトロサミンのような発がん物質を五十二倍も保有する.発がん物質はいったん吸いこまれると,その五五%が呼吸器内に沈着する.周りにいる非喫煙者が肺がんになる危険性は一・九倍に増加,非喫煙者の一〜三%が受動喫煙が原因で心筋梗塞で死亡するとの報告もある.
日医は,多数の人が集まって食事する店内で毎日引き起こされている受動喫煙の問題を重視し,最優先で取り組むべきであろう.分煙を実行しているレストランもあるが,大部分の飲食店では喫煙者と非喫煙者とを混在させ,毒性の強い副流煙のなかに,すべての客を曝している.
この問題を解決すべく,私は石原東京都知事に,すべての飲食店で入口に「全席喫煙席」「全席禁煙席」「喫煙,禁煙分席」の表示義務化の条例案を提示している.
国民に禁煙意識を高めるためには,まず,啓発する側の医師の姿勢を正さねばならない.ここで,医師会会合中の喫煙行為を自粛しない限り,禁煙キャンペーンの成功はあり得ない.
「子どもは体ができ上がっていないから,たばこや酒は毒になる.飲むのは,大人になってからにしなさい」と両親に教えられていたので,酒は二十歳になって飲みはじめた.たばこは吸うまいと思っていたが,酔った勢いで吸ってしまった.それ以後,ヘビーなチェーン・スモーカーとなり,多いときは百本,それも両切りピースかハイライトを吸い続けていた.
而立になる年,博士号の研究をはじめることになった.指導して下さる先生は,たばこをお吸いにならない.たばこをやめようか考えていた矢先,新聞で禁煙飴の宣伝を見た.医局に出勤すると,先輩の医師がその禁煙飴をなめていた.これは,たばこをやめよとの神の啓示に違いないと,早速,その飴を購入した.
なめはじめても,すぐにたばこをやめたわけではない.ただ,一本吸った後の次のたばこまでの時間を次第に延ばすようにして,その間を飴をなめて過ごしたのである.
三十歳になる直前,一昼夜たばこを吸わずに過ごし,さて,朝の一服を吸おうかとくわえた時,これを吸って,また二十四時間吸わずに我慢することと,このまま吸わずに過ごすのと,どちらが楽か考えて,以来,吸わずに過ごして十数年が経った.これからも,次の一本までの時間は長く過ぎて行くだろう.そして,寿命が尽きるとき,末期の一服をしたいものだが,果たしてそのとき,たばこというものがこの世にあるだろうか.
若者の人工妊娠中絶について
川田一郎(栃木県・上都賀郡市医師会)
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平成八年ころから,高校生など若者の人工妊娠中絶が,全国的に増加しております.快楽性だけを追及する風潮になった現代社会で,若者の性行為を否定することはできませんが,男女交際や援助交際などでの若者の性行為を,現代の趨勢として傍観せざるを得ないのでしょうか.
人工妊娠中絶の増加の原因は,避妊知識の不足にあると思われます.若者の避妊は五〇%とのことで,避妊知識不足と,ためらいも反省もない安易な刹那的な性行為の結果の中絶といえるのではないだろうか.精神的にも未熟で,自制心や判断力にも劣る生徒が,男女交際を大恋愛と錯覚して,自分本位の性行為での胎児の生命を,自分の都合で闇に葬って良心の呵責はないのだろうか.
以前は,学校側からの性教育講演依頼が多かったのですが,現在はほとんどありません.性教育はカリキュラムに組み入れるので,受け入れる時間がないというのが学校側の理由です.
中絶や避妊に詳しい産婦人科医が,「協力医」として実例を交え,若者に分かりやすい納得できる講演が,より効果が期待されます.日母栃木県支部でも,県教育委員会に協力医としての実現を働き掛けております.低容量のピルが認可されましたが,要処方箋が未婚の若者の服用を阻んでおります.若者の性の実態を認め,西欧諸国同様,若者のピル入手を簡単にすることと,妊娠が退学に繋がらないことなども,再考の必要があると考えております.