日医ニュース 第956号(平成13年7月5日)
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より良い長寿社会のために 安田正幸(大阪府・旭区医師会) |
「先生,ころっと死ねる薬をください」と来院のたびにいうのは,九十三歳の自立した生活を送っている女性患者である.最近,このようなことをいう高齢者が増加しているように思う.
こんな患者と話すごとに,学生時代に聴いた小児科教授の退官講議の一節を思い出す.それは,「医学の進歩により,かつては,この世に生まれることなく,あるいは,生まれても早く神に召される児を,生かすことが可能になってきた.そして,私は生命を救うことを医師の使命として,全力を尽くしてきた.しかし,その結果,大きなハンディキャップを持ち,この世に生を受けた児が苦難の人生を歩むのかと思うと,良いことをしているのかどうか悩むことがある.このことの解決は若い諸君がしてほしい」というものであった.
一方,感染症の撲滅,がん治療の進歩,公衆衛生の普及等,医学・医療に携わる人々の多大な努力により,古来,人々が願っていた長寿社会が,わが国に実現した.長寿とは「長生きを寿ぐ」ものである.ところが,昨今の財政不況のもとで,社会保障費の削減,医療費,就中高齢者医療費の削減が大きく取り上げられ,長寿者には姥捨山的風潮とも受け取られかねないものとなっている.これでは,先の教授の言ではないが,われわれが努力をして達成してきた「長寿」が果たして良いものか悩まざるを得ない.
今こそ,社会保障のさらなる充実の主張に向け,大同団結するべき時である.
長寿日本一 亀井正明(岩手県・水沢医師会) |
老年の生き方の指針として,ある作家は,「気のすすまぬことはやらぬだけ」という.簡にして妙を得た言葉である.
週二日の診療以外は,庭掃除,花木の世話,散歩,孫の相手と,勝手気ままな日々を過ごしている.酒は飲まず,たばこは吸わず,長寿になる条件にかなっているようだが,長寿者になろうとの意識などさらさらない.
昨年暮れの入院を契機に,曹洞宗開祖道元に興味を抱き,ついに,永平寺参りとなる.
総門の石柱に「杓底一残水」の言葉が刻まれているのをこの目で確かめ,山門をはじめ,七堂伽藍を拝し,長い回廊をしっかりとこの足で踏みしめた.
「誰にもほめられたいと思わない.これだけのことをしたから,これだけの報酬が得られるということもない.それでも時が来れば花が咲くように,ほめられても,ほめられなくても,やるべきことをちゃんとやって,だまって去って行く,そういうのが仏の教えであり,真理でもある」
この言葉をかみしめながら.
七百五十年続く禅の修行道場永平寺の宮崎貫主.十五歳で入門,現在,百一歳の禅師のこの言葉こそは,まさに道元禅の集成であり,貫主こそは日本一の長寿者であると思う.
発菩提心もなく旅から帰ると,「会員の窓」への投稿依頼が届いていた.テーマは長寿.
禁煙の思い出 福田博通(佐賀県・佐賀市医師会) |
喫煙歴二十年のヘビースモーカーの私が突然禁煙したのは,ちょうど四十歳の誕生日であった.もしも喫煙することにでもなれば,そのかわり,なんでも進呈いたしますという約束を交わすことを決心した.ある友はポルシェ,あるものはハワイの別荘などと,とても実行不可能なものが並べ立てられた.禁煙を開始したものの,いろいろと悩み,数日間から数週は夢のなかで喫煙してしまい,寝汗とともに目覚めたりした.
ところが,次第にからだに変化がでてきた.まずせきがでなくなった.目覚めて深呼吸をすると,肺がめりめりと膨らむのを感じた.少し体重が増えたが,逆に味覚が敏感になった.そして嫌煙へと気持ちが移っていった.診察中に禁煙だと説得するようになった.今まで人にどんなに嫌なにおいを振りまいていたのかと痛感した.
そして,とうとう,禁煙組合という妙なものを結成した.友だちのなかに喫煙者がいると,誓約書を書かせるのである.そして,いろいろな条件を出す.南極旅行だ,南太平洋の島一つと次々とあがる.しかし,自然と禁煙が成功していくのである.
医師たるものが,たばこのもつ安心感や依存心を当然のように唱える者がいる.禁煙に成功するために,ぜひ,私たちの禁煙組合にご加入を勧めます.なお,入会費は二十一世紀特典で無料です.どうかこのチャンスをおみのがしになりませぬよう,宇宙旅行でも夢みてお待ちしております.
日医会館の全館禁煙を望む 阿曽沼要(宮城県・仙台市医師会) |
日医は,「健康ぷらざ」などで禁煙キャンペーンをしており,坪井会長も禁煙推進を宣言されました.たいへん結構なことと思います.
しかし,肝心の医師がたばこを吸っていたのでは説得力がなく,万引き警官が防犯を説くようなものです.一般市民に範を示すためには,まず,医師の禁煙・断煙は必須なものです.依存症のSmokerにはむずかしい問題ですが,せめて,医師会館を全館禁煙にしてください.
二〇〇四年には,日本医師会が世界医師会総会を主催します.来日する外国Doctorsの嘲笑・軽蔑の対象にならぬよう,日医会館を,即刻,全館禁煙にされるようお願いいたします.
日医会館内に滞在する時間は,禁煙の航空機内にいる時間より少ないはずです.航空機と違って,会館では屋外に出ればSmokingは可能なはずですから,問題はないと思います.
非医師の団体(大正製薬など)でも全館禁煙にするところが増えてきました.こういうことは,本来なら,医師会が率先してやらねばならぬことだったのではないでしょうか.
今からでも遅くはありません.(日医)医師会館を全館禁煙されるよう決断をお願い申し上げます.そして,各地の医師会館も…….
医師会館が,煙の館であってはなりません.
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