日医ニュース 第957号(平成13年7月20日)

会員の窓

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長寿は祝うべきものか
関 信義(秋田県・能代市山本郡医師会)

 秋田県は,米どころ,酒どころとして名を馳せているが,脳卒中・がん死亡率でも上位にランクされており,高齢化率でもトップ争いの常連で,それに若者の流出と少子化が拍車をかけている現況である.筆者の町は,人口一万三千人足らずだが,外来の五〇%が老人医療の受給者で,保険点数では六〇%を超える.
 高齢とは,国連の基準では六十五歳以上のものとされ,日本では七十歳以上が老人医療の対象になっている.それでは,長寿とはどんな基準があるのだろうか.辞書によれば長寿とは,寿命が長いこと,長生き,長命とあり基準はなさそうだ.寿そのものは,ながいき,長命年齢のほかに,ことほぎ,いわい,ことぶき,ひさしなどの意もある.
 九月十五日は敬老の日という祝日だが,以前は老人の日であった.戦前はそんな祝日はなかった.都会地ではいざ知らず,地方では養老式が毎年行われていた.養老という言葉は古く,後漢書に「擘雍に幸きし初めて養老の礼を行う」とあるそうだが,日本でも奈良朝時代に養老という年号があった.養とはヤシナウ,ハグクム,教エルのほか,使ウ,取ル,隠スなどの意があるという.
 筆者は,町の敬老式に出席したことはないが,今年,数え八十歳ということで,紅白のまんじゅうと歩行杖をもらった.長寿イコール長生きは,コトホギ,祝うべきものか,ヤシナイ,カクスべきものなのか,自ら問いかけている今日このごろである.

真の「長寿」を求めて
猪股 正(青森県・青森市医師会)

 長寿を単に文字どおり解釈すれば,いわゆる,寿命が長いという意味になる.しかし,長寿の持つ意味を,単に文字そのままにとるのは,あまりにも味気ないことである.
 長寿には,長寿として,本来持っている,別の,真の意味があるものと考えるのである.
 すなわち,長寿の持つ真の意味のなかには,単なる文字どおりの解釈のほかに,さらに,そのなかには,どうしても無視することのできない,人間としての生き方というか,そのほか,いろいろな意味のあることを忘れてはならないと思うのである.いわゆる,単なる年齢的長寿だけでは,真の意味の長寿とはいい難いのではないか.
 私も今や,いわゆる,長寿のなかに入っているのだが,最近,特に加齢とともに,何かしら精神的むなしさを感じ,このままでいいのか,という不安を覚える.
 私のこれからの人生に,多少でも,心の支えになるようなものはないかと,真の長寿を求めて,ささやかな努力を続けているが,思うにまかせず,相変わらず,愚行の日々を過ごしているのが現実である.
 これまでの私の人生を振り返ってみる時,愚行そのもののような人生であった.凡人の所業として,現在,後悔より先に,むなしさと同時に,諦めの感情を抱くのみである.
 私の残りの人生を真剣に生きるという,最後の気持ちだけは忘れることなく,日々,愚行を繰り返しながら生きている.

PPK
神保勝一(東京都・江戸川区医師会)

 これは日本語の略語で,英語の略ではありません.したがって,PKOなどと混同しないでほしいと思っています.
 私は”長寿について”述べるつもりです.近年のわが国の高齢化は,めざましいものがあります.
 厚生労働省発表の「平成九年簡易生命表」によると,男性が七十七歳を,女性は八十四歳を超えました.日本は,男女とも世界一の長寿になったわけです.さらに,三大死因であるがん,脳血管疾患,心疾患を克服すると,男性は八十六歳,女性は九十歳まで生きると予測されています.おめでたいことです.
 しかし,本当におめでたいのでしょうか.
 四十〜五十歳代の精神力と肉体と気力があって,そのまま歳を加えることができると思っていたら,結果は違っていました.すべてが,本人の希望とは異なって,衰退の一途をたどることが分かりました.なかには,兄弟妻子の区別もつかなくなったり,意味もなく徘徊したり,食欲すら失って,寝たきりになって死ぬのを待つだけの余生を送るのはいかがなものでしょうか.
 気力が充実し,肉体が衰えることなく,ピンピンした人生を楽しみたいものです.
 それには,まず,病気をしないことです.そして,仕事と遊びに全力を尽くすこと.「ピン・ピン・コロリ」の略語がPPKです.私はそう生きたいと願っています.

理想的な長寿とは
柳瀬恒範(三重県・津地区医師会)

「長寿」という言葉を聞いただけでも,さわやかな気持ちになるものである.男性七十八歳,女性八十二歳と世界一長寿国となったわが国.これも戦後の行政および衛生行政の成果であり,たたえられて良いが,われわれ医師による日々の診療・治療と疾病予防に対する市民への教育等の奮闘も長寿に繋がったとみても良いのではなかろうか.
 ただ,「長寿」といっても,テレビや新聞などのマスコミに出られるほど,百歳を超えても,なお,かくしゃくとして居られる方もあれば,その一方で,寝たきりの方も多く居られるのである.高齢になると,誰でも大なり小なりの病気を患うことは致し方ない.
 では,理想的な長寿とはどうであろうか.「ぼけず,寝たきりにならず」に,人々の世話にならないで一生を全うするのが良い長寿ではなかろうか.年老いたといっても,家に閉じこもらずに,健康教室や介護サービスのデイサービスなどを利用して,積極的に運動やリハビリを行えば,ほかの人からうらやまれるほどの楽しい長寿社会が送れると思う.
 介護保険ができて一年が経過,介護度により介護サービスを受けられるようになったが,在宅でも,寝たきりにならないで,他人からの世話を受けなくて良い長寿社会が一番である.
 このような理想的な長寿社会を作るためにも,われわれ医師による地域医療が重要となってくるので,なお,いっそうの貢献に努めなければならない.

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