日医ニュース 第959号(平成13年8月20日)
外来でのPOMRのあり方を討議 |
第二回診療情報提供の環境整備のための講習会が,八月四日,「外来診療録の上手な書き方―POMRの実践をめざして―」をテーマとして,日医会館大講堂で開催された.当日は,出席者から多数の質問が寄せられ,昨今の医療を取り巻く環境から,診療録の書き方に対する関心の高さをうかがわせる講習会となった. |
櫻井秀也常任理事の司会のもと、西島英利常任理事の開会あいさつがあり、続いて、坪井栄孝会長が講習会の成果に期待を示し、次のように述べた。
「本日の講習会では、特に、外来における診療録の書き方POMRについて、橋本信也先生から話をうかがい、参加者と質疑応答をしてもらうことになっている。なぜ、今さら、われわれプロフェッションに対して、外来における診療録の書き方など講義するのだと考える先生方もおそらくいるのではないかと思うが、診療録をどのように上手に書くか、あるいはきれいに書くかということの話をしようとは考えていない。
私どもは、日本の医療を世界に誇れる患者さん中心の医療にしたい、そして、その医療を直接担当するわれわれも世界に誇れる医師でありたいと考えている。そのために、日医は、『医療構造改革構想』というものを三年前に公表した。医療を分かりやすいものにするために、われわれが意識を変えなければならないことがあれば、堂々と変えていこうという考えのもとに、医療構造改革構想の実現を目指している。
情報を提供する側のわれわれの意識を変える手段として、カルテの内容を充実させるということは、患者さんにとっては、最も分かりやすいわれわれのアクションであると考えている。そういう意味で本日の講習会を捉えてもらえれば、ますます視野が広がっていくのではないだろうか。
われわれは、総合的に自分自身の手で医療を変えていこうとしており、小泉内閣の構造改革には大賛成だといっている。しかし、改革というのは百%よくするということであり、今の経済財政諮問会議や総合規制改革会議の社会保障に対する改革ビジョンというのは、医療には素人の学者と営利を目的としている会社の経営者たちが手を組んで作ったものであり、これは公正ではない。正しい改革をするためにも、われわれが声を大きくして主張していかなければならない。このままでは、日本の医療はどこに行ってしまうかわからないという危機感をもっている。
本日のような講習会を通じて、協力をお願いしたい」
基調講演
「外来におけるPOMRの実践と普及」
引き続いて,橋本信也国際学院埼玉短期大学副学長による基調講演「外来におけるPOMR(問題指向型診療記録)の実践と普及」が行われた.
これまで,カルテに何をどのように書くかということについては医師の裁量に任されてきたが,近年の医療訴訟の増加,社会一般における人権意識の高揚や情報開示を求める動きによって,日頃から正確かつ詳細にカルテを記載する習慣を身につけておくことが必要になっていると指摘.そのようななかで,診療を系統的に行い,それに基づいて合理的にカルテを書き,記載されたカルテを開示に耐えうるものにする方法として,POMRが注目を集めているとした.
そして,そのPOMRとは,POS(問題指向システム)に基づいて記載された診療録であり,日医でも平成十二年一月の医事法関係検討委員会答申「診療録のあり方について―適切な診療情報の提供を促進するために」のなかで,望ましい診療録としてPOMRを推奨していることを紹介した.
POMRの利点としては,(1)POSという他の学問領域でも高く評価されている行動様式に基づいて記載することから,カルテが客観的で合理的なものとなる(2)患者さんの抱えている問題点を常に考えて行う診療であるから,患者中心の医療をすることができる(3)診療に見落としをすることがなくなる(4)医師相互間,あるいはコメディカルの人々との診療録の共有化が可能となり,チーム医療の推進につながる―等をあげた.
また,今後は,医師一人ひとりがこうした理念に基づいて診療を行うことによって,自己の臨床能力の向上に努めてほしいと要望した.
シンポジウム
「外来におけるPOMRの実践」
その後,シンポジウムに移り,まず,POMRに従った外来診療録の書き方について,日本医師会雑誌付録「外来診療録─書き方の手引き」に基づいて説明が行われた.
岩本安彦東京女子医大糖尿病センター所長は,糖尿病診療の立場から,「糖尿病は自覚症状・主訴がない場合が多く,初診時の丁寧な問診が必要となる.カルテの記載に当たっては,体重の変化や趣味といった日常生活全般事項,さらに家族状況,過去の病歴なども重要な資料となる.また,食事と運動療法が中心となるのでその記載は必ずしてほしい」とした.
矢崎義雄国立国際医療センター総長は,高血圧診療の立場から,「高血圧症は,最もポピュラーな病気ではあるが,同時に自覚症状が少ない病気の代表でもある.カルテの記載に当たっては,リスクファクターの検討過程,生活改善の指導内容,今後想定される合併症の可能性,定期的な検査と副作用のチェックなども重要となる」とした.
次に,西島常任理事が,診療情報提供の立場から,カルテの書き方などについて考えを述べた.
「医師と患者の相互理解を深めることを目的として診療情報の開示を積極的に進めているが,そのための重要な資料となっているのがカルテである.そのカルテを書く際に注意しなければならないこととしては,(1)客観的に書く(2)正確な情報を残す(3)タイムリーな記載を行う(4)自分以外の人が読めるようにする(5)単なる経過記録に留まらず,さまざまな必要事項を記載する(6)やむを得ず書き換える場合も,前に何が書いてあったか分かるようにしておく(7)他の医療従事者の非難をしない(8)患者さんに対して感情的な表現を用いない―等が挙げられる.個人情報保護法が成立すれば,診療情報の開示を求める声が多くなることが予想される.これらの点に注意して,誤解を受けないカルテの記載を行ってほしい」
質疑応答では,「日医の診療情報の提供に関する指針とカルテ開示の関係」「POMRと電子カルテの関係」「POMRの具体的な書き方」などについて,多くの質問が参加者から寄せられた.
最後に,櫻井常任理事が,「POMRによるカルテの書き方が絶対的であるということは決してないが,POSという考え方については導入したいと考えている.その考え方に基づいて診療し,それを合理的に記載することによって,よりよい診療の一助としてほしい」と総括し,講習会は終了となった.