日医ニュース 第961号(平成13年9月20日)

勤務医のページ

座談会(その1)
「21世紀における勤務医のあり方」を語る

 日医勤務医委員会は,坪井栄孝会長からの諮問「21世紀における勤務医のあり方」についての検討を行っており,現在,答申作成中である.今回の座談会は,各地域のさまざまな立場の勤務医の意見を答申に反映させるべく企画したものであり,4回に分けて掲載していく.第1回目の今回は,「21世紀の勤務医を取り巻く環境の変化」をテーマとした議論の模様を掲載する.

 池田 本日はお忙しいなかをお集まりいただきまして,ありがとうございます.「二十一世紀における勤務医のあり方」というテーマで座談会を企画いたしました.よろしくお願いいたします.
  「二十一世紀の日本の医療の姿」あるいは「勤務医の姿」というものに光明を与えていただくようなお話を期待しております.

[勤務医を取り巻く環境の変化]

 池田 二十一世紀(二〇一五年〜二〇二五年ころ)の勤務医を取り巻く環境の変化について,まず,ご発言をお願いいたします.
  医療制度の抜本改革というのが出てくると,病院の生きざまが,もうまったく変わってくるのではないでしょうか.
 私の病院も,福岡県久留米市のような競争が激しいところでは,病院の特徴・専門性を発揮して,住民・地域,医療機関に理解を求めるようなやり方をやっていかないといけないし,今からは護送船団方式の時代ではなく,かなり厳しいと思っています.公的病院のあり方自体が非常に問題になってくる可能性があると思っています.
 小川 病院それぞれの役割がはっきりと明確化されれば,勤務医もそこの病院に合ったタイプの医師になっていくだろうし,みんながみんな同じ道を歩いているのではなくて,かなり早い時期に進む方向を決め,分かれるようになっていかないと無駄が多いように思います.
 昌子 私の病院は,二百五十床という中途半端な規模で,近くに大学病院,大病院があり,あと五,六年で当病院がどうやって生き残るかが決まるだろうという危機感を持っております.
 これからの生きる道としては,当病院は,環境からみて,高度に専門化された病院にはなれないわけで,チーム医療で医師がコメディカルの間をまとめるような,いわゆるコーディネーター的な形になっていくと考えられます.
 最近よくいわれているNST(ヌトリショナル・サポート・チーム)(栄養支援チーム)などを私の病院でも始めて,すべてのスタッフが患者さんとチームで接して,そのなかの一つの役割として勤務医(医師)を考えています.今までのように指示を出したら終わりということではなくなっているのではないかと思います.
 田中 私の勤務する県立病院は七百五十五床で,政策医療も担っていかなければいけない基幹病院の一つですが,赤字病院です.今後は公立病院といえども,医療法改正などを見ながら,健全経営を目指さなければならないと思います.
 最近の大きな問題は卒後研修であるとか,大学の改革です.そういう大きな基本的なところが,この五年ぐらいでかなり動くのではないかと思いますので,このあたりも視野に入れながら,見通しを微調整する必要が出てくるでしょう.
 我妻 病院がなくなるかどうかという前に,北海道の場合は,二〇一五年,二〇二五年には地域が残っているのかというぐらい,多分,危機的な状況だろうと思っています.
 といいますのは,町村合併という問題もありますし,現在,北海道で私がいる地域(二次医療圏)の基幹病院というのは,人口十七万都市で二百床規模の病院が二つ,三つ,医師が充足しているのは多分そこぐらいで,それ以外の公立病院は非常に医師不足です.それ以外の町村の病院は多額な赤字を抱えています.果たして,病院として地域として残れるかというような時代になっています.
 その一方で,その地域で古くから開業されていた先生方は高齢化,後継者不足でどんどん消えていっています.そうすると,超赤字の町村立病院に,ごく少数の勤務医が必死でその地域を支えていて,開業されている方々がいなくなるという状況が,多分,二〇二五年ぐらいにはあるのではないでしょうか.
 そういう意味で,地域の医療そのものがそのころには崩壊するのではないかとさえ思います.
 加藤 仕事の関係でいろいろ病院を見させていただいておりますが,それぞれの地域との絡み,あるいは周りの医療状況ということで,今後どうにかしなければといった考えを皆さん持っていると思います.
 ただ,そういうなかで,経営者的な立場の方は,それはそれなりの危機感を持たれているということはよくわかるのですが,一般の勤務医の先生方が,これからどうしていかなければいけないのか,あるいは後輩をどうやって育てなければいけないかというところまで考えていないのかなという感じがします.
 また,今後,臨床研修義務化ということで,研修指定病院の先生方は指導ということで大変だと思いますが,その指導される方が指導できるような教育をどのように受けるのだろうかと思っております.

出 席 者
(司会)
池田 俊彦
(日医勤務医委員会委員長・福岡県医師会理事)
我妻 千鶴 (我妻病院副院長・札幌医科大学非常勤講師)
小川 朋子 (山田赤十字病院外科副部長)
加藤 済仁 (弁護士:加藤法律会計事務所・順天堂大学医学部客員教授)
昌子 正實 (宇都宮社会保険病院副院長・栃木県医師会常任理事)
田中 一誠 (県立広島病院腎臓総合医療センター長・広島市医師会副会長)
南   浩 (社会保険久留米第一病院副院長・久留米医師会理事)
星  北斗 (日医常任理事)


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