日医ニュース 第965号(平成13年11月20日)

勤務医のページ

座談会 (その3)
「21世紀における勤務医のあり方」を語る

 日医勤務医委員会は,坪井栄孝会長からの諮問「21世紀における勤務医のあり方」についての検討を行っており,現在,答申作成中である.勤務医の意見を答申に反映するために企画された今回の座談会の模様については,これまで2回にわたり「21世紀の勤務医を取り巻く環境の変化」と「医師養成と臨床研修システム」をテーマとした議論の模様を掲載してきた.第3回目の今回の議論は,臨床研修と医師会との関わり,臨床研修を行う施設側の質の問題などについてである.

[研修のコーディネート]

 池田 卒業生が一つの病院のなかだけではなく,いろいろな病院で研修をするために,どういうところがコーディネートしたらいいとお考えですか.
 小川 これは上がやってあげることではなくて,もういい大人なわけですから,学生個人が選ぶようにしなければいけないと思います.全部お膳立てしてやる必要はなくて,どこでどんな研修ができるかを情報公開するべきだと思います.
 池田 勝手にすると,バッティングしますよね.
 小川 評判のいいところに行くということですから,ある意味では自由競争で,いいのじゃないかと思います.
 昌子 私が,学生時代のころにも,夏休みや何かに病院訪問というような形でありました.ただ,実際には,やはり評判のいいところにたくさん行くということになるのでしょうね.
 小川 評判のいいところは,結局,制限しないと無理です.その時点で,学生さんのレベルというので切られるということになるわけで,それは当然のことだとは思います.
 田中 スーパーローテイトする施設については,研修指定施設でなければという縛りはあるのではないですか.
  臨床研修の義務化を機に,現在の大学を中心とした臨床研修を抜本的に変えなければならないと考えています.臨床研修をおのおのの病院ではなく,地域単位で引き受けて,地域の病院,診療所で担当を決めて研修を行うという形がとれないか検討しているところです.
 田中 人数などの調整がありますから,だれかがコーディネートしなければ難しいですね.
 池田 調整は,地域の事情が一番わかっている医師会がいいという考えもありますが,大学は大学の方で取り仕切りたいという願望もあると思います.
 昌子 例えば,魅力のある開業医の先生のところで飯でも食わしてもらいながら泊まり込みでやるような形が,非常にいいと思います.それは,大学では実際にできませんから,医師会が当然介在することになると思いますが,現在の医師会ではそういう状況を把握していませんし,開業医の先生まで含めてやるというシステムは少し難しいとは思います.
  久留米では,久留米医師会の副会長に大学病院の副院長が自動的になるので,大学病院と医師会との関係は非常に良好です.
 コーディネートの問題でも,大学と医師会が一緒になってできれば理想的だろうと思います.やはり大学を医師会が取り込むというか,そういう気持ちにならないとことは進まないし,大学だけで,何百人もの研修医をさばくのは,不可能だと思うのです.
 ですから,病院長も医師会に入っているのですから,医師会を窓口とすれば,スーパーローテイトもうまくいく可能性は非常に高いとは思っています.
 田中 広島の場合は,県医師会の副会長の一人は大学の医師会長(教授)です.恐らく,委員会でもつくれば,コーディネートは可能ですね.開業会員の施設のなかにも研修施設として適格なところもあるので,確かに医師会が一翼を担うというのは重要だと思います.
 小川 そういう形で,初めに医師会とのつながりができると,勤務医も医師会に入るのではないかと思います.
  そういう意味では,医師会を異動すると,そこを退会して,また入ってまた入会金を払う.これはもうかなり前からいわれていることなんですが,今もってこれが解決できていないですね.会費を均一化して,継続して医師会員となれるようにする必要があります.研修などを通じて,勤務医も医師会と関わりを持たなければいけないと思います.
 加藤 医療機関で研修するだけではなく,一般の社会と接触できるような研修も必要なのではないかと思います.ただ,現実的な問題として,国からお金が出ないとなかなか難しいと思います.
 昌子 若い先生に教えているのは,医師の論理ではなく,市民の人がどういうことを考えているかを常に意識しなさいということです.そういう意味では,医療機関以外での研修は非常にいいと思います.

[研修・教育の質]

 我妻 スーパーローテイトで研修施設がかなり広がらなければやっていけないだろうというお考えはまったくそうだと思います.
 しかし,いい医師がいるところが,いい指導者のいるところとは限らないですよね.とすると,その研修施設の質の担保が必要ではないでしょうか.大きくて立派な病院だから,いい研修施設になり得るかどうかというのも疑問だと思います.
 そういう意味で,研修に行った医師が研修施設を評価して,研修施設の質を上げていくという作業が片方にないと,スーパーローテイトも有名無実になっていくのではないかと感じます.そのなかで,ぜひプライマリ・ケアの領域でのローテーションは,特に,対人関係の持ち方をきちっと教えられる現場として,位置づけていただければいいと思います.
 池田 病院の医療の質だけではなく,病院で行う研修や教育の質は,どのようにしたらよくなりますか.
  それだけのローテイトをするのだったら,それだけの人間を確保してもらわなければ困るという要請はしようと思っています.しかし,なかなか人材の問題からいって,そうはいないのではないかなということが一つと,指導をする側の能力の位置づけはどうなっているのだろうかと.いわゆる学会の認定医,指導医という程度のものでいいのか,そこが大きな問題になってくるのはまず間違いない.
 ですから,大学との連携のなかで,どう持っていくかということを,まずは模索しないといけないのではないかと思っています.
 田中 評価の点が難しいですね.自己評価しかないかな.確かに,指導する側は,どういう資格なのかということですね.
 小川 経験を含めた医師としての評価は,同じ医療従事者でないと評価できない部分は当然あるので,上からの評価は大事だとは思います.けれどもやはりそれだけではだめで,例えば,退院していく患者さんにアンケートをとって,自分の主治医に関してどうだったかを聞くなど,パラメディカルの人や患者さんの評価が不可欠でしょう.
  うちの病院では,一時期ローテイトの派遣医の質をどう評価するのかが問題になりました.そのときの一番のポイントは,協調性があるかどうかというところが大きな判断の分かれ目となりました.だれが評価するのかという,客観的な事実を加えてとなると,患者さんからの評価も当然必要になると思っております.

出 席 者
(司会)池田 俊彦 (日医勤務医委員会委員長・福岡県医師会理事)
我妻 千鶴 (我妻病院副院長・札幌医科大学非常勤講師)
小川 朋子 (山田赤十字病院外科副部長)
加藤 済仁 (弁護士:加藤法律会計事務所・順天堂大学医学部客員教授)
昌子 正實 (宇都宮社会保険病院副院長・栃木県医師会常任理事)
田中 一誠 (県立広島病院腎臓総合医療センター長・広島市医師会副会長)
南   浩 (社会保険久留米第一病院副院長・久留米医師会理事)
星  北斗 (日医常任理事)


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