日医ニュース 第966号(平成13年12月5日)

会員の窓

会員の皆さまの強い要望により,投稿欄「会員の窓」を設けました.意見・提案などをご応募ください.

禁煙の標語
海老沢功(茨城県・真壁郡市医師会)

 禁煙を勧める時に用いる標語を紹介する.
(1)たばこは早死にするための掛け捨ての掛け金である.
 タイのたばこの箱に政府の命令で書くように指示されている言葉である.こんな文句を見たら,たばこを買う人が減り政府は税収が減って損するだろうとの質問に,喫煙者が減れば肺がんや心筋梗塞患者が少なくなり,厚生労働省の予算が減るから差引利益があるという返事であった.一日一箱,二百五十円のたばこを吸っていたら,年間九万一千二百五十円の掛け金を払って死を急ぐことになる.それよりは,利子が安くても銀行の定期預金の方が得である.
(2)女性がたばこを吸うと,吸わない人より五年早く顔にしわがよる.
 ハーバード大学予防医学研究室の女性が書いた論文のなかにあった成績である.うら若い女性に,「たばこを吸って顔にしわがよってくると男性に見離されるよ」と警告すると,肺がんや心筋梗塞の話よりも説得力があるようである.
(3)たばこ訴訟の和解金
 習慣性のある有害物質たばこを国民に売りつけたことの損害賠償金請求事件で,米国のたばこ会社は二百兆円で和解した.その社長が,こんなに多額の和解金を払って会社が成り立つのかと聞かれたところ,日本と東南アジアで売りまくっているから平気なのだと答えた.米国産たばこを吸う人は,実は二百兆円の和解金の一部を支払っているのである.
(4)たばこは棺桶の釘
 coffin nailというれっきとした英語もある.
 以上は,外来患者に禁煙を勧める時に用いている標語である.

医師会館・病医院の禁煙と学会場の禁煙
野尻 修(愛知県・春日井市医師会)

 日医が,禁煙キャンペーンを実施していると宣言しても,それに呼応した形での各県医師会の活動はいっこうに進まないようである.福井県医師会が,独自に禁煙キャンペーンを開始されたようであるが,よそではあまり聞かれない.日医が,国民に向かってキャンペーンを展開する以前に,まずは,医師の意識改革を図ることが必要なのではなかろうか?
 全国でも全館禁煙とする病院が出現しているものの,それらは先進的な院長あるいはスタッフの努力の賜物であり,多くの病院の「タバコ対策に対する意識」はいまだ低いと考える.
 日医のキャンペーンの一環として,
一,各県,地方医師会館の全館禁煙化
二,病医院,健康管理センターなどの全館禁煙化,もしくは完全分煙化(分煙ランクA).そして院内でのタバコ販売の中止
三,各種医学会あるいは医学講演会の会場全体の禁煙義務化
 現場での早期実施は難しいであろうが,右記程度の指導・要請が日医から出されても良いのではなかろうか?
 今や,禁煙推進は,喫煙者への禁煙指導もさることながら,受動喫煙の防止,未成年者に対する防煙対策が重要となりつつある.日医として,受動喫煙環境をなくすことに,もう少し積極的になってもらいたいものである.
(注:筆者の希望によりタバコをカタカナ表記にした)

医師が病気になったとき.「心筋梗塞編」―2
沢山俊民(岡山県・倉敷医師会)

 本紙第九六〇号「会員の窓」で「医師が病気になったとき.『心筋梗塞編』」(奥島平八郎著)を興味深く拝読しました.
 ただ,著者の場合は幸運だったようですが,私が四十年にわたる大学循環器内科ならびに定年退職後開業での診療中,著者とはまったく逆のケースにしばしば遭遇しました.その成果は内科学会総会で発表し,論文化もしてあります.
 その骨子は,心筋梗塞の自己診断について多数例でアンケート調査した結果,年齢・職業・学歴を問わず,正診率はわずか八%という内容です(沢山俊民著:患者から学ぶ循環器診療の落とし穴 日本医学出版 一九九九).
 つい先日も,予兆を無視していたため,心筋梗塞で急死した私の教え子で四十五歳の開業医,心筋梗塞とは知らず「胃食道逆流」で苦しんでいた某医大循環器内科教授,心筋梗塞とは思わず「胃潰瘍」と自己診断したため初期治療の恩恵に浴する機会を逸した内科開業医と放射線教授等々,枚挙にいとまがありません.
 例え心臓専門医でも,予兆を見逃したり,他疾患と誤認すれば,初期治療の機会を逸するのみならず,急死につながる結果ともなり,そうなると,まさに「医者の不養生」といわざるを得ないのです.

医師が病気になったとき(その2)
力丸 修(石川県・金沢市医師会)

 ここに平成十二年度の石川県医師国保組合のデータがあるので紹介したい.
 一年間のトータルであるが,受診率を見ると,県内の他の国保組合の平均が外来六九二%であるのに対し,医師国保は三八九%と最低,大きな開きがある.入院に至っては,一般国保が二九四%に対し,医師国保は九四%と圧倒的に少ない.これは休診できない,もし休診したら後が大変とばかりに,最後の最後まで頑張っておられる何よりの証左に他ならない.
 そこで,歯科受診はと見ると,一般国保平均が一一二%であるのに対し,一三〇%と第二位の高位である.とても歯科の治療までは何方もなさらないのであろう.以上の傾向は,老人医療の給付状況ではもっと顕著になる.
 全国の医師国保組合が,自家診療の保険給付を全面的に認めていない理由も分からないではない.
 現在,私は一応健康を保っているが,これから迎える高齢期に対し,とても不安である.皆さんそれぞれに生命保険や傷害保険とか休業補償など万全の備えはしておられると思うが,これとても,ある程度の収入を得たうえでの投資である.自分でする投資である以上,収入の安定が求められる.
 今後,勤務医とか開業医の区別なく,構造改革の荒波は押し寄せてくるわけであるから,これらを皆で一緒になっていかに乗り切るか.そして,精神的な余裕を持って地域医療に貢献できる医師が,一人でも多くなることを願って止まない.


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