日医ニュース 第968号(平成14年1月5日)

診療報酬改定1.3%引き下げ
初のマイナス改定に苦渋の選択

 政府・与党は,昨年十二月十七日,平成十四年度診療報酬改定の最終調整を行い,一・三%の引き下げを決定.本体部分の据え置きを求めていた日医としても,昨今の厳しい経済状況等に考慮して,最終的には苦渋の選択を余儀なくされたが,今後は制度論的なアプローチによる真の医療制度改革の実現に努力したい.

 厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協・星野進保会長)は,昨年十二月十二日から,平成十四年度診療報酬改定の方向性についての協議を開始した.
 六%程度の診療報酬の引き下げが必要という支払側に対し,診療側である日医は,「現下の厳しい経済状況等にかんがみ,薬価引き下げによるマイナス改定はやむを得ないが,技術料に踏み込んだ引き下げには反対する.医療の質の担保の観点から,現状維持を」と,あくまでも薬価以外は据え置きを主張.次回に改めて話し合うことになった.
 十二月十四日に開催された中医協総会でも,依然として,日医の主張と支払側の要求には隔たりがあり,議論は平行線のまま.途中,星野会長の提案により,公益側による審議報告案作成に入り,診療・支払側と個別折衝した結果,その内容について双方が了承,舞台は政治の場へと移った.
 審議報告では,診療報酬改定については,「賃金・物価の動向や最近の厳しい経済動向,さらには,医療保険制度改革全体の流れのなかで,改革の痛みを公平に分かち合うという観点からも,相応の見直しを行う」という表現になった.
 同日,中医協終了後に厚生労働省で記者会見を行った菅谷忍常任理事は,「審議報告に積極的に賛成というわけではないが,診療・支払側双方が痛みを分かち合うということなので,了承した.診療報酬は,医療機関にとって,その基盤を維持するために重要なものである.今後二年間の医療機関の経営は難しい面があるが,われわれも努力して対応したいので,政府も慎重な判断をしてほしい」と,改めて診療報酬の据え置きを強調した.
 政府・与党は,十二月十七日,自民党の丹羽雄哉医療基本問題調査会長を中心として,診療報酬改定の最終調整を行い,診療報酬本体一・三%,薬価・医療材料一・四%,それぞれ引き下げることを決定.これにより,平成十四年度予算概算要求で削減された二千八百億円分のうち,国庫負担は約一千八百億円節減,あと約一千億円は制度改正で対応することになる.

日 医
「経営再生キャンペーン」を強力に推進

 この結果を受けて,糸氏英吉副会長,菅谷・青柳俊両常任理事が,十二月十八日,記者会見を行い,今回の医療制度改革および診療報酬改定等に対する日医の考えを明らかにした.
 糸氏副会長は,まず,今回の医療制度改革について,「財政的なつじつま合わせの域から脱しておらず,今後は制度論的なアプローチによる真の医療制度改革が強く望まれる」との感想を述べた.
 そして,今後,日医として,以下の三点の実現に全力を傾注していくとした.「まず,短期的な目標として,真の高齢者医療制度の創設を望む.単なる手直しでは,二十一世紀は乗り切れないと考えており,本当に国民が安心できる医療制度を作ってもらいたい.
 中期的目標としては,IT化の推進がある.日医としてはオープンソースによるレセプトオンラインシステムの本運用を来年に実施するが,これを強力に推進していきたい.
 また,長期的目標としては医療保険制度の一元化が挙げられる.保険者間の強力な財政調整,市町村国保の広域連合化などを経て段階的に統合への機運を高めていきたい」
 また,今回の改革のなかで日医の主張が達成されたものとして,(1)老人医療費伸び率管理制度導入の断念(2)被用者保険の患者三割負担増の見送り(3)高齢者に対する一割負担の上限設定(4)被用者保険の保険料総報酬制導入の実施―などを挙げた.そして,今回の医療費国庫負担圧縮によって,保険者に相当な財政的余裕が生じることになるが,その財源が制度の適切な運営に活用されることを強く要望した.
 一方,経営が逼迫することが予想される医療機関に対しては,「経営再生キャンペーン」を日医として強力に展開していくことを明らかにした.
 菅谷常任理事は,今回の改定結果について,「今回の改定では,従来と異なり,昨今の状況を考慮して,薬価の引き下げ分を診療報酬改定の財源とすることを求めないこととした.それだけで診療報酬はマイナスになるわけであるが,それではまだ足りないので診療報酬本体を引き下げろという大合唱のもと,最終的には苦渋の選択を迫られたが,下げ率を極力少なくて済む努力をしたつもりである」との感想を述べた.
 また,青柳常任理事からは,日医の「経営再生キャンペーン」について,具体的な説明が行われた.
「従来から日医総研のなかに経営分析センターというものをすでに立ち上げているが,今後,その部門を強化していく.
 具体的には,まず,経営管理の強化を個々の医療機関にしてもらう.例えば,医薬品あるいは医薬材料の購入に関してはできるだけ安く購入してもらい,コストの削減を図ってもらう.また,経営をサポートする各種の情報をインターネットを通じて,日医から発信していきたい.さらに,診療報酬改定が実施される来年四月前後の医療費動向がどう推移するのか患者動向も含めて,情報をきっちりと把握したうえで会員に提供していきたいと考えている」


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