日医ニュース 第968号(平成14年1月5日)
「生物兵器への対応」をテーマに |
感染症危機管理対策協議会が,「生物兵器への対応」をテーマとして,平成十三年十二月七日,日医会館大講堂で開催された.
冒頭,坪井栄孝会長は,次のようにあいさつした.
「本日は,その道のエキスパートである三人の講師に講演していただくが,その内容は将来のことではなく,今現在,必要なことばかりである.今日起きうる可能性が十分にある問題に対して,地域の医療に携わる者として,その対策を作り,防護対策の知識の普及を図る義務がわれわれにはあると考えている.ぜひ活発に討議し,実のある協議会としてほしい」
引き続き,講演三題が行われた.
講演(1)「生物テロについて」では,江畑謙介氏(軍事評論家)が,まず,今日の生物兵器テロを生む背景として,(1)冷戦後における世界観,価値観の多様化(2)ソ連邦の解体による科学者・技術者の流出,研究・生産施設の管理体制の劣化─があると指摘.今後,懸念されるテロとして,水汚染テロならびに農業・畜産テロを挙げた.
水汚染テロについては,一般的に先進国では,水道水を塩素殺菌しているが,炭疽菌,マイクロシスチン,黒穂菌などは塩素で死滅させることが難しく,今後,飲料水をテロ攻撃から保護する体制の強化が望まれるとした.一方,農業・畜産テロは,今日の日本での狂牛病問題をみてもわかるとおり,国民への経済的・心理的打撃が極めて大きいとして,人間や家畜,穀物を含めたテロ対策を考えていく必要があると強調した.
講演(2)「大規模感染症発生時の医療機関の対応について」では,倉田毅国立感染研究所副所長が,主に,地球上から根絶された天然痘の危険性について説明を行った.
天然痘は,炭疽菌に比べて散布するのは難しいとされるが,いったん散布されるとその被害は極めて大きくなる.しかも,多くの国では,天然痘ワクチンに対する生産能力に欠けているという現状を指摘し,その対策が早急に望まれるとした.さらに,今後は,国民にパニックを引き起こすような病原菌に対して,すばやい対応ができるよう日頃から医師,看護職などへの教育を繰り返し行うことが重要になると強調した.
また,天然痘患者を取り扱う際には,(1)医療関係者はあらかじめ種痘を受けておく(2)患者を隔離収容する(3)病室の空調を他の病室と別のものにしておくこと―などが必要となるとした.
講演(3)「生物兵器(炭疽菌)によるテロリズムへの対応について」では,五味晴美日医総研主任研究員が,皮膚炭疽症ならびに肺炭疽症に関する診断および治療方法について,詳しく説明を行った.
また,肺炭疽症は人から人への感染はないが,皮膚炭疽症は,病変に直接素手で触ると人への二次感染を起こす可能性があるとして,この二次感染を防ぐことが医療機関内の対応として,もっとも重要になると指摘した.
つづいて,雪下國雄常任理事から予防接種法の改正内容についての報告が行われた.そのなかでは,(1)高齢者等への予防接種を促進するため,対象疾病にインフルエンザが二類疾病として追加されたこと(2)二類疾病の予防接種についても,これに起因する健康被害については公費による救済が認められたこと(3)判断能力のない人に対しても,家族と医師の協力により,接種意思の有無の確認を含め,接種適応を決定する必要があること―などの説明が行われた.また,今期のインフルエンザワクチンについては十分な量が供給されているので,冷静な対応をお願いしたいとの要請がなされた.
(なお,本協議会の模様は,特に炭疽について焦点をあてて編集し,平成十四年一月四日(金)午前十一時から,日本テレビ系「からだ元気科」のなかで紹介される予定となっている)