日医ニュース 第970号(平成14年2月5日)

視 点

インフルエンザ予防接種
―予防接種法改正まで―

 予防接種法が改正され,従来の対象七疾患が一類となり,二類にインフルエンザが指定された.一類は集団発生を防ぐためのもので努力義務が課せられているが,二類は個人の発病を防ぐことで集団の発生も少なくしようとするもので,こちらは努力義務は課していない.
 インフルエンザ予防接種の対象年齢は,政令により六十五歳以上の者等と定められたが,これは平成十一年インフルエンザによる死亡者が一千三百名を超え,その大部分が老人福祉施設の高齢者であったことから,公費で予防接種し防禦しようとする施策である.
 しかし,この法律が改正されるまでには,種々の問題があった.そして,その根底には,高齢者の接種をまず実施し,これを小児にも拡大させ,医師が利益を得ようとしているという野党の憶測に起因するものがあった.
 その第一の抵抗は,ワクチンの有効性であった.そもそもインフルエンザワクチンが予防接種法からはずされたのは,小児での無効論によるもので,高齢者に接種しても効果がないのではないかという反論である.厚生労働省は神谷研究班を設置し,高齢者に接種すれば,重症化を防ぎ,死亡率も八〇%低下させる効果があることが証明され,決着が付いた.
 次の問題は,個人予防を目的とし,任意で受けるので,本人の十分な理解と同意があり,氏名を自筆できる者以外は除外するという条件の提案である.この条件は,現在すでに保護者の同意と代筆で実施している小児の他の予防接種と同様に,インフルエンザの接種対象が小児に拡大されるという思惑にほかならない.
 しかし,特別養護老人ホームの現状は,予防接種の必要性を十分理解し,しかも自筆署名できる者は二〇〜三〇%いればいい方である.大部分を占める軽い痴呆のある者や麻痺があって自筆できない者を見捨てて良いのであろうか.
 強力に申し入れて,保護者とかかりつけ医が助力し,接種を希望する者や,自筆不可能な者には代筆により可能としたが,今なお釈然としない.
 日医は,平成十一年に激増傾向にあるインフルエンザ対策として,特に高齢者を対象に予防接種法に位置付け,任意接種を推奨するとともに,その接種費用と健康被害補償を公費で負担する要望書を厚生労働大臣に提出し,その実現に向け努力してきた.せっかくの国民の健康を思う提案が,一部の者にであるが,医師のエゴとしか理解されないのは残念であった.成立された法律が,成果をあげてくれることを確信している.


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