日医ニュース 第971号(平成14年2月20日)

日本医師会市民公開講座
「忍び寄る性感染症予防と治療」をテーマに


 日本医師会市民公開講座「忍び寄る性感染症 予防と治療」が,一月二十六日,日医会館で開催された.
 冒頭,坪井栄孝会長は次のようにあいさつした.
「日医は,常日頃から国民サイドに立った医療を提供すると主張している.その意味でも,われわれ自身が一般の方々のなかに入っていって,さまざまな話をするということは絶対に必要なことだと認識しており,これからも今回のような公開講座を多く実施していきたい.
 今回,なぜ性感染症というテーマを選んだかについては,最近,海外からの感染症流入が増加してくるなかで,性感染症に関する問題は非常に多様化しており,それらに関する十分な情報がこれまで必ずしもなかったということがある.本日の講師は,その分野での牽引者であり,熟知している方々ばかりである.ぜひ,実り多きシンポジウムとしてもらいたい」

シンポジウム

 その後,シンポジストから性感染症の現状に関して,その具体的な治療・予防法ならびに情報の分析結果などの説明が行われた.
 雪下國雄常任理事は,まず,「性病予防法」「エイズ予防法」が感染症法に統合されたため,性感染症は一般感染症として,あくまでも人権を尊重した個々の予防・治療を優先することになったことを説明.今後は,個々に自分の健康を守る努力が求められるとした.また,現代に性感染症が蔓延している背景には,若年者の性行動が活発化していることが挙げられるが,必ずしも若年者は,正しい知識をもっていないことを問題視し,早い段階での性教育の必要性を説いた.
 国立感染症研究所感染症情報センターの進藤奈邦子氏からは,同センターで行っている性感染症定点観測の結果から,近年,性器クラミジア感染症,淋菌感染症が増加しており,特に,十代の患者が増えている事実について指摘があった.また,若者の性行動の多様化によって,日本でエイズが蔓延する危険性を強調した.
 さらに,松田静治江東病院顧問・(財)性の健康医学財団副会頭は,産婦人科から見た性感染症について,現在の状況は女性優位の性感染症時代となっているとして,特に性器クラミジア感染症が増加していることを問題視した.治療を怠れば,本人が不妊症になる危険があるばかりでなく,出産時に母子感染して胎児に新生児肺炎や結膜炎を引き起こすことがあることを指摘した.
 小島弘敬前日赤医療センター泌尿器科部長は,泌尿器科の立場から,女性には性感染症の症状が現われにくいため,女性の診療機会が少なく,これが大きな問題となっているとした.そして,性感染症はすでに身近に忍び寄っているとした.さらに,日本および世界のHIV感染者,AIDS患者数等の状況について説明を行った.また,日本でも医療費が削減され,現在のように抗菌薬が使用できなくなればアフリカのように性感染症が蔓延しかねないと警告した.
 性感染症の発生予防および蔓延の防止策について,松田氏からは早期に検査を受けること,進藤氏からはさまざまな形でできるだけ多くの情報を提供することの重要性が指摘された.また,小島氏は,スウェーデン,アメリカの例を挙げながら,性感染症の予防は困難であるが必ずしも不可能ではないとして,「適切な医療」と「知識の普及」が車の両輪となっていく必要性を訴えた.
 一方,雪下常任理事は,学校や家庭に何でも相談できる環境を整備すること,社会の偏見をなくしていくことが必要であると強調した.
 なお,この市民公開講座の模様は,NHK教育テレビ「金曜フォーラム」で,三月八日(金)午後十一時から放映される(予定).


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