日医ニュース 第977号(平成14年5月20日)
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会員の皆さまの強い要望により,投稿欄「会員の窓」を設けました.意見・提案などをご応募ください. |
大食い,早食い大会に一言 羽鳥 浩(東京都・小石川医師会) |
昨年暮れにテレビで恒例の「大食い,早食い大会」を見ました.優勝賞金一千万円.タイトルは「大食い,早食い大会」ではありませんが,番組の内容はご覧にならない方でも想像できると思います.世界中の貧困で悩んでいる多くの人たちに大変失礼な企画であり,自らの健康を害する可能性のある行為は,今,病気で病んでいる患者さんに対しても失礼なことと思います.
高額の賞金を用意すれば,出場者は必ず集まります.出場者の方に罪はなく,視聴率だけをねらった番組を企画する側に問題があるのではないでしょうか.このような番組を放送する一方で,同じ放送局が難民の貧窮を訴え,募金まで要望していることに矛盾を感じ,報道のポリシーに疑問を覚えます.
今後,賞金目当てに無理をした出場者が死亡するようなケースがありえると思います.新聞への投書やコラムなどではすでに批判されている問題で,多くの人がよくないと思っているのは確かです.事故が起こる前に,また,他の国々から非難を受ける前に,医師会から警鐘を鳴らして,何とかやめさせてほしいのです.一医師の意見ではなく,医師会からの予防医学的見解として出していただければ,もっと影響力があるのではないかと思います.
人々の健康と環境を守ることが医師の使命であるなら,日医として,このような放送に異論を唱える必要があると思います.
二百五円ルールと性善説 西 信博(北海道・小樽市医師会) |
日本の国民皆保険制度は性善説を基本に,患者と医師の信頼関係のうえに成り立っていると思ってきた.ところが,最近の医療制度改革では,その風向きが変わってきた.
例えば,事務簡素化のために続けられてきた二百五円ルールが原則廃止となった.一部の保険者とマスコミがあおった,医師不信キャンペーンの結果である.彼らの唱えてきた,医療費包括化に逆行し,医療事務の煩雑化,コスト高をまねく結果となる.
診療報酬明細書には,すべての薬名を書かねばならない.請求事務は煩雑になり,いわゆるレセプト病名が増える.審査する保険者側の照合,査定事務も急増する.しかし,返戻,再審の手間が増えるだけで,素人が考えるような医療費削減の結果にはならない.
世界的に公的医療保険,民間医療保険とも,医療費は高騰している.そのなかで償還払いを採用している保険での不正請求は,かなり多額になるそうである.ことに,アメリカの民間保険では,不正請求を摘発するための,専門家による審査が非常に高いものにつくので,逆に不正請求をフリーパスにした方が,経営的に有利とわかったという.
日本の医療保険での医療費通知制度も,保険者が莫大な費用を使って調べているのに,さっぱり医療費節減の実効が上がらない.これは不正請求が少ない証拠でもある.
日本の皆保険制度の初心にかえり,性善説に立脚した患者医師関係を守ってゆきたい.
効果的な禁煙ポスターを 荘野 格(熊本県・天草郡市医師会) |
ポスターならたくさん作ったとお考えであろう.お名前は失念したが,胸部外科の方の随筆で,喫煙を重ねた人の肺は,牛の黒い鞣革を使い古したような色をしていると書いておられた.
私は随分長く医業をしているが,そのような肺を実見したことがなく,リアルに撮影した剖見の写真を見たこともない.これをポスターや患者に提示しやすい大きさの版にしていただきたいのである.
優れた映画を観ると,たばこが俳優の手をいかに奇麗にみせるものかと感嘆する.その手からたばこを取り上げたら,木偶の棒になりそうである.女性は特に手に魅せられるという.そのように,たばこへの誘惑は多分に眼から入る.肺がんになる率が多い等という理性に訴える説得は聞き流されるという感じが強い.
北欧の国のポスターに人の形を正中から左右に二分し,「顔の皺が早く寄る」とか,各部分に説明を書き込んだものがあるそうだ.それも名案だが,真っ黒くなった肺の実写を見せていただきたいし,また見せてあげたいものである.
病肺の写真が醜いからといって,掲示をためらうこともあるまい.
禁煙のゆくすえ 牧原良行(愛知県・豊田加茂医師会) |
「ギシッ,ギシッ,ギシッ…」と雪の感触を足の裏に感じながら山を登る.雑木の枝にこびりついた雪が,日光を屈折してキラキラと輝く.冬とはいえ,きつい登りに顔からうなじに汗がしたたり,白い息もはずむ.
腰から大腿に疲れを感じるころ,道はそれ以上続かず,山の頂きに着いたことを教えてくれる.リュックを下ろし,仲間とワインで乾杯!
しばらく何も語らず,遠く雪をかぶった山々を見つめながら,静けさのなかにゆっくりと時間がすぎてゆく心地良さに身をまかす.至福の時である.
十数年前,ヘビースモーカーであった僕は,ある日思いきってたばこを止めた.
それから,一週間はそれは大変であった.
頭はボーッとするし,イライラする.ボールペンを持つ手も震えるようである.
何とか禁煙に成功すると,今度は食事がうまくて仕方がない.食欲にまかせ,食べまくること数カ月.その結果が顔貌が変わるほどの超肥満と高脂血症.
これはいけないとウォーキングを始める.しかしながら,歩くことで健康管理するような年になったかと思われるのが嫌で,人に会うと駆け足をして自分は走っているのだとアピールをした.
こうして自然にウォーキングからジョギングに変わった.山特有の土くさい植物性の臭いと,四季変化する花々にもひかれ,山のなかも走った.それが山登りとなり,今,山の頂きにたどり着いた.
「風が吹けば桶屋が儲かる」式の「たばこを止めて山頂に立つ」である.
体型もアザラシから
オットセイくらいにもどったし,高脂血症も改善された.
喫煙派の皆さん!たばこを止めればきっと思いもつかない,すばらしいことにめぐり合うかもしれませんよ.