日医ニュース 第977号(平成14年5月20日)

勤務医のひろば
今,勤務医に求められるもの―新人開業医の心―


 史上初の診療報酬のマイナス改定が,動き出した.医療事故のニュースは,連日のように新聞紙上を賑わせている.今ほど日本の医療の危機が現実化してきたと思える時期もないのではなかろうか?
 ただ,危機は医療のみにとどまらない.日本経済,あるいは日本そのものが危機に陥っている.近い未来に国債の暴落を予言する人々がいる.私もその予言に同調する.
 このような現状において,勤務医に求められるものは何だろうか?
 情報開示とか情報の共有などという言葉で語られる,パターナリズムから自己決定権の尊重の時代に変わったことは明らかである.それは,すべての医療従事者に必須の事項となった.
 しかし,私は最近,今の勤務医に必要なものは,「新人開業医の心」ではないかと思っている.
 すなわち,一人の患者さんが,新規開業のクリニックを受診した.診察をし,診断をつけ,治療をする.患者さんは納得してくれただろうか? この次,また受診してくれるだろうか? 私のサービスに喜んでくれただろうか? 勤務医の時には,あまり意識しなかった薬剤や医療材料のコストのことなど,従業員の給料を払うには,徹底したコスト管理が求められている.
 私は,勤務医の集合は,病院の他の医療従事者とやや異なり,組織の一員というより,独立した営業マンの連合のように思われる.ともすると,勤務医は組織の一員でありながら,病院全体のことを軽視してきた.しかし,この厳しい医療環境のなかで,一人ひとりの勤務医に患者さんが満足してもらえるサービスの提供が求められている.
 そのサービス提供の原点が,「新人開業医の心」である.

(宇都宮社会保険病院長 昌子正實)


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