日医ニュース 第978号(平成14年6月5日)
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政府は,三月二十九日,「規制改革推進三か年計画(改定)」を,閣議決定した.そのなかには,保険者によるレセプトの直接審査・支払に関する件が盛り込まれている.
直接審査・支払というのは,経営システムの面から見れば,アウトソーシング業務の自前化ということになる.社会の流れに逆行することであり,健保組合が実行するに当たっては,当然,コストとリスクの両面からの冷静な検討がなされるはずである.
コスト面では,インフラ整備のためのコンピューター投資が最大の費用となろう.専門的な仕事であるだけに,要員確保のためのリクルート費用や,全国の医療機関からレセプトを毎月回収する仕組み作りのコストもばかにならない.また,経常費用についても,公的保険にふさわしい公平な審査体制の維持コスト,業務量拡大に伴う人件費,コンピューターのメンテナンス費用や医療機関等との連絡コストを見積もらなければなるまい.
リスク面では,まずレセプト情報の漏洩リスクがある.健保組合は,アルバイトや臨時雇いの人が多い職場だけに,かなりのそれも刑事罰的なリスクを覚悟しなければならない.さらに,直接審査が医療費のカットを目的とする限り,医療機関からの反発も強く,訴訟リスクが大きくなることが予想される.
このように,直接審査・支払は,成果が測りにくいわりに,コストとリスク両面から見ると,大変に厳しい話であることがわかる.コスト,リスクとも健保組合のみならず,母体企業に降りかかってくる要素を持っているだけに,経営者にとっては,実行を決断しにくい案件といえよう.
さて,これまで直接審査・支払は,保険者機能の強化の一環として検討されてきた.ここで思い起こす必要があるのは,健保組合は審査・支払を放置してきたわけではなく,アウトソーシングという選択をしてきたということである.その前提に立てば,無駄を廃し,効率を上げるべく,アウトソーシング先の仕事ぶりを監視することこそ,保険者機能の強化となるのではなかろうか.
支払基金の人件費水準や,業務費の使い方,支払金利水準等の経費の検討を十分に行い,また,業務の執行状況も観察する.そのうえで,審査・支払委託手数料が妥当かどうかの判断をすべきである.
直接審査・支払という悪手を打つ前に,コストをかけずに確実に効果の得られる保険者機能強化の有効な対策の実行を提言したい.