日医ニュース 第980号(平成14年7月5日)
第8回日医総研セミナー 小泉改革を多方面から検証 |
第八回日医総研セミナーが,「小泉改革 本当のところはどうなんだ―社会保障のあるべき姿を巡って―」をテーマとして,六月二十一日に日医会館大講堂で開催,小泉内閣の構造改革を多方面の視点から検証した講演と討論が行われた. |
総合司会を阿部重夫「選択」編集長が担当,糸氏英吉日医総研所長(日医副会長)があいさつに立ち,医療制度関連法案が国会で審議中であることに触れるとともに,「医療改革が,官邸主導の名の元に短期的な財政収支対策に終始しており,患者の負担増だけが目に付いている.昨今のマスコミ等の論調は真の構造改革はいまだ何らなしえていないという論調に尽きているが,その要因を明らかにして,今後の構造改革を国民にとって正しい方向に向かわせる契機にしたい」と述べ,現在の小泉改革に対しての疑問を提示した.
まず,山口二郎北海道大学大学院法学研究科教授が,「構造改革をめぐる政治構造」と題して講演に入り,日本型経済システムの行き詰まりが政治腐敗を招き,政府がエンジン不在の状況にある点を指摘した.
つづいて,「社会保障の再構築と財政再建は両立し得るか」と題して,神野直彦東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授が講演し,競争社会のコストがかさむ小泉改革は時代遅れの改革であり,競争原理ではなく協力原理が現在は求められている点を強調した.
三番目に,「国民のための改革には何が必要か〜年金・財投・地方財政」と題して,土居丈朗慶應義塾大学経済学部助教授が講演し,独自の収入で債務返済のできない公的機関・地方自治体の借金のしわ寄せが国民にきていると述べた.
その後,コメンテーターとして,新たに武見敬三参議院議員と青柳俊副会長が加わり,総合討論「〜改革を正しい方向に変えるために〜」に移った.最初に武見参議院議員が,「保健・医療分野はやはり聖域である」と述べ,日医が行っている緊急レセプト調査のように診療報酬の再改定を科学的に正当化する根拠の確立が求められていることや,政策的価値観の共有が政府にはないと指摘した.
次に,青柳副会長が,小泉内閣の医療改革が,(1)非営利原則の否定(2)国民・患者負担の増大(3)将来ビジョンの欠落―という三つの大きな問題点を抱えていることを取り上げ,非営利原則が守ってきたさまざまな利点が,営利原則によって壊されていき,急激な費用の増加につながっていくことを危惧し,日医は,小泉内閣の進める市場原理の導入に反対していく考えを示した.
活発なフロアとの質疑応答の後,閉会した.