最初に結論をいえば,現在提出されている健康保険法等の一部改正案には断固として反対する.
反対の理由の前に,日本の医療保険制度に関する基本的な考えを二点述べる.
第一点.日本の医療保険制度は,国際的にみて,きわめて安い費用で,世界一の高寿命や世界一低い乳幼児死亡率等のすばらしい成果を上げており,世界に冠たる優れた医療保険制度である.せっかくの優れた制度を破壊するような改悪案には,強い憤りを感じる.
第二点.医療保険の財源が不足した場合には,第一には保険料,第二には公費負担のアップによって対処すべきであり,患者負担によって補う考え方には反対である.患者負担を受益者負担という人がいるが,患者は受益者ではなくて,むしろ受難者である.受難者に負担を強いる制度には強く反対する.
以上の基本的考えから,今回の健康保険法等の改正案に,以下の二点において,断固として反対する.
第一点.老人保健法の一部改正による,高齢者の入院外自己負担定率および高額医療費化(還付方式化)と上限額の引き上げに反対する.入院外,特に在宅医療における高齢者の負担は,きわめて重い負担となり,高齢者が安心して医療の提供を受けられなくなる可能性がある.還付申請方式は,かなり煩雑で,申請のし忘れなど,確実かつ適正な運用は期待できない.
第二点.健康保険法の一部改正による,被用者保険本人の三割負担の導入に反対する.保険料負担の軽度の増加によって,被用者保険本人の患者負担三割導入は回避できる.被用者保険本人の患者負担三割が,被用者保険家族や国民保険加入者の患者負担と比較して,公平であるという意見をいう人がいる.しかし,その考えは,まったく間違っている.日本の医療保険制度における負担の公平は,保険料の負担と患者負担の両者を合算して考えるべきものである.被用者保険家族は実質的に保険料の負担をしていない.したがって,被用者保険本人より高率の患者負担をすることが公平である.また,国民保険は,保険料負担分が少なく,その財源にはほぼ五〇%の公費が投入されている.保険料負担の少ない分を三割の患者負担として補うことが公平であるという考えで運用されてきたのである.被用者保険本人の患者負担三割導入は,このような日本の医療保険制度の負担の公平の考え方を根底からくつがえすものである.
最後に,もう一つだけ意見を述べたい.現在の日本経済の苦境は,経済界自体の失態によるものであって,その原因は医療分野にはない.にもかかわらず,その解決策を,医療分野,特に患者負担に求める考え方には,納得がいかない.むしろ,国民に安心と安全を保障する医療保険制度の充実こそが,日本経済の建て直しのために必要であると考える.
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