日医ニュース 第982号(平成14年8月5日)

視 点

少子化への対応と課題

 わが国の基本政策として,聖域なき構造改革の第一の政策活動は経済対策であった.なかでも,社会保障政策は,世界に冠たる国民皆保険制度を汚すものとなっている.今こそ一人ひとりが問題意識を持って立ち上がるべきである.国の予算の使い方を改め,安心して暮らせる社会への取り組みと社会保障を主役にすべきである.
 ちなみに社会保障への公費支出は,対GDP比で日本は三・四%に過ぎない.このようななかで,少子化が進んでおり,二十一世紀半ばには人口減少社会,超高齢社会が同時に進行する時代を迎える.
 平成十四年度内閣府の重点施策の一つに男女共同参画社会の形成の促進がある.厚労省の重点施策としては,安心して子どもを産み育て,意欲を持って働くことのできる社会づくりの推進と子育て支援の充実,仕事と家庭との両立支援対策の促進,雇用の分野における男女の均等な機会および待遇の確保等が取り上げられている.国土交通省は,子育てしやすい環境の整備,文部科学省は男女の家庭,地域生活充実支援を掲げている.
 少子化が将来のわが国社会のあり方に深刻な影響を与えることは想像に難くない.少子化の背景や要因を明らかにして,幅広い視野に立って取り組むことが,現在を生きる私共の責務であろう.人口減少社会の姿を今後どう考えるかは,人口問題審議会報告を始めとして,多様な論点や視点があるが,二〇二五年の時点で現在取り組んでいる政策を相当思い切って行ったとしても,楽観はできない深刻な状況と予想される.
 結婚や出産は個人の自由な選択に委ねられるべきであり,生き方の多様性を損ねてはいけないが,自ら望む場合は,マイナス面の影響を最小限に食い止め,対応を図る必要がある.具体的には,結婚や出産の妨げとなる社会の分担意識,雇用慣行,制度を是正し,子育てと仕事の両立への支援,子育てネットワークの推進,生活環境の整備,子育て費用の軽減,機会費用の上昇への対応,乳幼児期における女性の就労支援施策,ジェンダーの適正な認識への意識改革,男女ともに子育ての喜びや楽しみの再確認,母子保健と医療面への支援等が挙げられる.諸施策の実施と連携する一方で,いたれりつくせりの社会的援助と豊かな生活だけでは代替できない大切なものもあることの教育も重要であろう.
 心豊かな子育てが実現できるよう,諸施策はもとより各界各層の提言が「絵に描いた餅」にならないよう取り組みが大切であり,日医の少子化対策委員会報告にもあるように,すべてに優先されてしかるべき課題であろう.


日医ニュース目次へ