日医ニュース 第983号(平成14年8月20日)

勤務医のひろば

医学教育改革の大きな流れ


 全国の医学部および医科大学で,大きな教育改革が進んでいる.今日的な社会の期待に応えられる良医の育成と,急速に発展する生命科学研究の明日を担える医学者を育成するためである.偏差値を中軸とする選別法が,どうしても大きな比重を持ってきた医学生に対して,医学・医療に対する関心,そこで医師として活躍するという使命感,全人的な医療を行うための態度,そして,医学を貫く科学性の理解と"なぜか"と問いかける態度等をよりいっそう涵養するためである.
 いうまでもなく,挙げられているすべての面についての教育は,過去にも行われてきた.教育改革の大切なポリシーは,学ぶ側の主体性の尊重である.チュートリアルといわれる少人数グループ教育はその典型である.学生は与えられた課題内容に対する自らの"なぜか"の問いかけと解答を出すことの連鎖を通じて,自発的に医学を学んでいく.クリニカルクラークシップは,従来の臨床実習よりはるかに医療する側の責任感と態度を分担するとともに,実践的な医療行為を身に付けていく.さらに学部教育の一担として研究活動に参加し,医学の科学的プロセスを体験する.
 これら幅広い内容と形態を持つ新しい医学教育のために,医学部・医科大学のすべての教官は従来に比してはるかに膨大な時間を教育に費やしている.ひとえに次世代に責任を持てる医師・医学者を育成するという使命感によってである.
 卒後研修の必修化が,平成十六年度に始まろうとしている.様変わりをしつつある卒前教育改革の成果が実り始めている今日,これを引き継ぐ卒後研修の改革と整備が急がれなくてはいけない.厚生労働省を中心としての準備は,これまでのところ必修化の仕組みとルール作りが主になっている感がある.研修医の身分,待遇,研修内容,そして多忙を極める指導医の待遇保証等の実質内容の整備の実現を伴わない必修化は,混乱と教育の後退を招きかねない.

(三重大学医学部第二内科学講座教授 珠玖 洋)


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