日医ニュース 第985号(平成14年9月20日)
視 点 |
株式会社化で失われるもの |
総合規制改革会議から七月二十三日に「中間とりまとめ」が提出された.そのなかでは,再び医療分野における株式会社の参入問題が取り上げられている.われわれは,これまで株式会社が医業経営に参入するということは,日本の医療がマネーゲームの対象とされる市場経済原理が持ち込まれることと同じことだととらえ,その参入に強く反対してきた.
総合規制改革会議では,株式会社がすべてであるような議論がなされているが,現在の日本をバブル経済とその後の不況に陥れたのはだれだといいたい.その反省もせず,無分別に株式会社論を支持するのはまったく理解できない.
株式会社化することによって,(1)資金調達が多様化できる,(2)企業経営ノウハウの導入により,経営の近代化・効率化が図れる,(3)利用者本位の医療サービスの向上が可能となる―などの指摘がなされている.
(1)については,現状でも株式会社は間接金融(企業が銀行からお金を融通してもらう方法)が主体であり,むしろ直接金融(個人や法人が企業に直接お金を融通する方法)の比率は医療法人よりも低いほどである.株式会社化によって,直接金融の拡大が可能となるというのは幻想に過ぎない.
(2),(3)についても,株式会社を前提とする近代化とは,(1)有限責任(2)持分の自由な譲渡性(3)法人格―を指しているものと思われるが,総じていえば,現状でも経営の近代化の度合いは,株式会社も医療法人も何ら変わりはない.
つまり,株式会社化によって得られるものは,何もないのである.
また,株式会社にとって,経営の効率性とは,「投資家のためにできるだけ儲ける」ということにあるが,医療法人の場合には,「利用者本位のサービス提供」こそが目的であり,この点で株式会社とは決定的な違いがある.株式会社にとって,「利用者本位のサービス」を向上させるということは,経営の効率化のための手段に過ぎない.もしも株式会社が参入し,不採算部門や採算に合わない患者さんなどが,株主の利益追求の阻害要因となれば,直ちにそれらは切り捨てられる危険がある.
このように,株式会社化によって医療の世界に営利原則を持ち込むということは,非営利原則のもとでこれまで築き上げてきた,命の平等や国民皆保険制度,フリーアクセス等の世界に誇れる日本の医療の長所がすべて失われてしまう.したがって,国民にとっての株式会社化の利害得失を考えてみても,医療分野における株式会社の参入は絶対に認めることはできない,というのがわれわれの基本的なスタンスである.株式会社化は,「最大多数の最大幸福」という社会保障の理念を踏みにじることを肝に銘ずべきである.