世界医師会(WMA)ワシントン総会開催される
―日医提案文書がWMA宣言として採択― |
2002年世界医師会(WMA)総会が,10月2日から5日まで米国の首都ワシントンD.C.で開催された.開会式典は,アコルシWMA会長による開会宣言で始まり,コブル・アメリカ医師会長による歓迎の辞,カルモナ軍医総監による来賓挨拶が述べられた. |
総会には,日医から坪井栄孝会長,糸氏英吉副会長,佐々木健雄・梅園忠両理事,櫻井秀也・西島英利・星北斗・青井
子・澤倫太郎各常任理事,関原敬次郎代議員会議長,畔柳達雄参与が代表として出席した.また,七十一加盟医師会のうち四十九の各国医師会から代表が参加した他,医療関連の国際機関からのオブザーバーを含め約三百五十名が参加,日本からは総勢四十六名が出席した.
今回特筆すべきは,一九五一年に日医がWMAに加盟して以来,初の提案文書であった「高度医療技術と医の倫理に関するWMA宣言」と「患者の安全に関するWMA宣言」が採択されたことである.
学術集会は,「テロリズムと生物兵器の増大する脅威への対処」を主題として,炭疽菌への対応をはじめ,バイオテロリズムにおける現実と将来の考察,生物兵器としての天然痘などをテーマに講演者,パネリスト併せて十六名により行われた.
二〇〇一年九月十一日の米国における同時多発テロの影響による第五十三回WMAインド総会の中止に伴い,空席であった二〇〇二〜二〇〇三年度のWMA会長には,フィンランド医師会前会長のDr.ミリマキが選出された.次期会長には,イギリス医師会のDr.アップルヤードが選出された.坪井会長は,この総会をもって三年間にわたるWMA会長職(次期会長,会長,前会長)を退くに際し,退任演説を行った.
[総会での議決事項]
一.財務企画委員会
- 新規加盟医師会:アゼルバイジャン,グルジア,ロシア,クウェート,ネパール医師会
- 加盟医師会数:WMAでは二年間の会費滞納による即時退会の規定の運用に伴い,調整の結果,加盟医師会数は七十八となった.
- 現在決定している総会の開催予定地
総会
二〇〇三年九月十〜十四日:フィンランド
二〇〇四年十月:日本
二〇〇五年十月:チリ
二〇〇六年十月:南アフリカ共和国
二〇〇七年九月:デンマーク
二〇〇八年九月:インド
中間理事会は,毎回WMA本部近郊のデイボンヌ・レ・バン(フランス)において開催される.
- 会費
WMA会費は,二〇〇三年より,現行のスイスフランからユーロに変更されることが決定した.
二.医の倫理委員会
採択された文書
- 高度医療技術と医の倫理に関するWMA宣言(本会提出文書)
- 患者の安全に関するWMA宣言(本会提出文書)
- 生物兵器に関するWMA宣言(ワシントン宣言として採択)
- 安楽死に関するWMA決議
- 精神医学の政治的乱用に関するWMA決議
- 女児胎児の殺害に関するWMA声明
- HIVの母子感染予防に関するWMA声明
- 安全な注射に関するWMA声明
コメントを求めるため各国医師会に回付される文書
- リビング・ウィルに関するWMA声明案
作業部会により再起草され,各国医師会にコメントを求めるため回付される文書
- 医師と企業の関係に関するWMA声明案
提出国のイスラエル医師会と共に,本会が改訂作業に加わることになった.
人権作業部会
- 拷問犠牲者のための国際リハビリテーション協議会(IRCT)との協力
既存WMA文書との調整が行われる文書
- 察知した拷問行為または残虐,非人道的,あるいは品位を傷つける取り扱いを非難する医師の責任に関するWMA決議案
コメントを求めるため各国医師会に回付される文書
- 行方不明者の法医学的調査に関するWMA声明案
三,社会医学委員会
採択された文書
- 自己投薬に関するWMA声明
- 医療データベースの倫理的考察に関するWMA宣言
- 全米保健機構(PAHO)に関するWMA決議
- アフガニスタンにおける医療サービスの提供に関するWMA決議
作業部会等によりWMA声明案の起草作業が行われる文書
- 医師の自律性に関するWMA声明案
- 国民医療保健制度の持続可能性に関するWMA声明案
- 医師の移動と医療労働力問題に関するWMA声明案
- 移動航空機内における医療支援に関するWMA声明案
その他
- 第三回世界水フォーラム
二〇〇三年三月日本で開催される当フォーラムの開催アナウンスメントが星常任理事より行われた.また,ポスター展示も行った.
四,準会員会議
十月三日,準会員会議が開催された.今回の会合では,かねてより米国の準会員より継続的に提出されていた,「七三一部隊に関する決議案」が議論され,採決の結果否決され,さらにこの文書を無期限に先送りすることが可決された.総会への代表として星常任理事とドイツ医師会のDr.クロイバーが選出された.
[その他]
- ポスターセッション
本会の禁煙活動について紹介した.
- レジデントフォーラム
アメリカ医師会とWMAの共催で,各国のレジデント間の連携を促進するフォーラムが開催され,星常任理事がオブザーバーで出席した.
患者の安全に関するWMA宣言
2002年10月,WMAワシントン総会にて採択
序 文
- 医師は,患者に対して,専門職として最高水準の医療を提供するよう努めている.患者の安全は,保健医療における質の中核的要素のひとつである.
- 医学および関連科学技術の進歩によって,現代医学は高度で複雑な医療システムの上に成り立つこととなった.
- 臨床医学は本来的にリスクを抱えるものである.現代医学の発展は新たな,そして時にはより大きなリスク―避け得るものやその他不可避的なもの―を生む結果となった.
- 医師は,これらのリスクを予見し,患者の治療のなかでそれらを管理するよう努めるべきである.
原 則
- 医師は,医療上の意思決定にあたっては常に患者の安全を確保しなければならない.
- 一個人ないしひとつの過程だけが原因でエラーが起ることはまれである.むしろ,別々の要素が結びつき,それらがいっしょになってハイリスクの状態を作り出すのである.それゆえ,ヘルスケアでのエラーを極秘に報告するための非懲罰的な環境が必要であり,これによりシステムの欠陥を予防し改善し,個人や組織の過失にしないようにするべきである.
- 現代医療に内在するリスクの現実を踏まえると,医師は,医療専門職という立場を超えて,患者を含むすべての関係者と協力して,患者の安全のために,プロアクティブ・システムズ・アプローチに取り組まなければならない.
- 組織的アプローチを構築するためには,医師は,絶えず,一連の最新科学的知識を吸収し,実地医療を恒常的に進化させるよう努力しなければならない.
- 患者の安全に関わるすべての情報は,患者を含むすべての関係者と共有しなければならない.同時に,患者の秘密は厳密に保持されなくてはならない.
勧 告
- それゆえWMAは各国医師会に以下のとおり勧告する.
-
10.1 各国医師会は,自国のすべての医師に対して患者の安全に関する方策を促進すべきである.
10.2 各国医師会は,個々の医師,その他ヘルスケア専門家,患者およびその他の関連の個人や組織に対し,患者の安全を確保するために必要なシステムを構築するよう協力することを奨励すべきである.
10.3 各国医師会は,生涯教育/専門能力開発によって,患者の安全を促進する効果的なモデルを形成するよう啓発に努めなくてはならない.
10.4 各国医師会は互いに協力して,患者の安全を向上するためにエラーを含む有害事象,その解決方法,そして「学んだ教訓」についての情報を交換するよう努めなければならない.
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高度医療技術と医の倫理に関するWMA宣言
2002年10月,WMAワシントン総会にて採択
- 医療技術の開発と発展においては人類の繁栄と技術の利用の限界とのバランスを取ることが必要であり,それは医師の良識に委ねられている.
それゆえ,- 医療技術の活用は人類と患者の健康を守る目的に限定され,その開発と発展において医師は患者の安全を十分に配慮する必要がある.
- 良識をもち適切な医療を行う医師を育成するにあたり,医学教育を充実させ,医学医療の根底にある人類愛についての理解を深める必要がある.
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