日医ニュース 第992号(平成15年1月5日)

会員の窓

 会員の皆さまの強い要望により,投稿欄「会員の窓」を設けました.意見・提案などをご応募ください.

医薬分業と地域格差
近藤春樹(兵庫県・宝塚市医師会)

 へき地ではないが,いわゆる人口過疎地域で開業するものにとっては,今日推進されている医薬分業は無縁の話である.薬価差益のない今日,市街地であれば,患者さんには不便を与えるかも知れないが,無駄な在庫薬品を抱えて経営を圧迫することのないよう,調剤薬局による院外処方に移行することは当然の成り行きである.
 これまで,サンプル品は在庫分の充当品と見なしていたが,現在,保険ではその使用を認めていない.
 このようなわけで,多くの医療機関が院外処方に切り替えるなか,製薬会社のMRたちはノルマを課せられ,販売ターゲットを院内処方のわれわれ弱小開業医に向けてより強力に日参することとなる.この売り込み攻勢には,まったくウンザリする.医薬分業体制をとれない地域格差のあることを考えると,本制度も不公平な点があり,これを解消してほしいものである.
 そのためには,現在の薬品流通を「富山の置き薬」方式に変えることである.これまでは,一度開封したり,有効期限が過ぎれば卸や製薬会社が回収してくれない仕組みであるが,これを「富山の置き薬」方式に,使った分だけ支払うようにして,在庫にかかる経費を削減できないものかと考える.
 このように「富山の置き薬」方式にすれば製薬会社の売り込みも過当競争にならないし,われわれ開業医も使いたい薬品を安心して購入できるし,期限切れの迫った在庫薬品の不必要な使用をしなくなる.

地域医療の拠点としての有床診
田畑傳次郎(鹿児島県・指宿市郡医師会)

 私は現在,有床診療所を経営している.このところ,ベッドは高齢の寝たきり患者に占拠され,動きが取れず,一般患者に対応できないでいる.外の診療所も同じ状況のようだ.以前に比べ,治療材料,人手いずれも余分にかかっているにもかかわらず,診療報酬面の改善が伴っていない.さらに,四月の改定が追い討ちをかけ運営が苦しい.ここ数年,目立って有床診療所が減少している.今,残ってやっている所は専門に特化したか,介護サービス事業等の利益で,何とか埋め合わすことで存続できていると思われる.
 厚生労働省は,機能別に医療機関を再編するにあたり,有床診療所の廃止をもくろんでいると疑いたくなる.ベッドをなくす方が楽になりそうではあるが,常々,住民に最期の看取りまでの約束をしてきているので簡単に止めるわけにいかない.少子高齢化の進展が地域医療体制を様変わりさせ,介護保険導入で,かかりつけ医の役割が改めてクローズアップされている.伝統的医療の原点である有床診療所がその条件を満たしている.住民が望むのは,何でも相談に応じ,いつでも診察してくれ,往診や入院が必要ならすぐに対応できる融通性である.それが身近にある安心感を担保するのがかかりつけ医であると考えている.
 今度,日医内に会長提案で有床診療所に関する委員会(プロジェクト)ができた.病気から生活まで継続して包括的医療介護のできる有床診療所の存在意義を再確認してもらい,診療報酬面の改善を含めた助成を切に願っている.

医事紛争と他人のかかわり
柳瀬恒範(三重県・津地区医師会)

 近年来,医療事故の新聞報道があとをたたない.医事紛争は医療事故紛争と違って民事的紛争である.
 私は産婦人科医であるが,婦人科は民事的紛争が多い.人工妊娠中絶を行う場合,配偶者の署名・捺印した同意書にて手術を受けることになる(母体保護法第十四条).ところが,中絶手術を受けてから数カ月して,その配偶者である夫(?)が中絶に同意した覚えがないと異議を申し立ててくることがある.同意書を見せても納得せず,しまいには他人の男性二人三人が現れて,解決金を要求する.身分を尋ねると,「ある政治団体構成員」と名のるので,この名前だけでも,どういう人物であるかは判断できる.解決金を拒否すると,「病院の前に街宣車を乗りつけ騒いでやる」などと恐喝に出てくる(実際にこのような目にあったクリニックもある).そのうえ,行政にこの解決策を求めたが,適正な指導が得られなかった.
 医療側にまったく民事的にミスがないにもかかわらず,このような結果を招くことに腹立たしく思うことがある.このような医事紛争は医療ミスによる医療事故と違って,診断書・同意書等による民事的事件である.患者本人や家族,弁護士でなく,見ず知らずの他人が立ち入ってくることのないように,われわれ医師は注意を払わなくてはならないであろう.

EBMの問題点の一つ
小倉浩一郎(愛知県・豊田加茂医師会)

 近年,EBMが重要視され,医学会/製薬会社はそれぞれの治療・薬剤の統計学的証拠を示そうと,こぞっていろいろなスタディが行われてきています.それは正当であろうと知りつつ,日々,明らかにされてくる数多くのEBMデータに,医師側が目を白黒させられているほどだと思います.
 ある疾患が診断され,そこにEBMが実証された治療があるとそれに従わざるを得ないような現状にすら思えます.そして,EBM に基づいた治療において,時に次のような問題に出くわします.
 例えば,脳卒中,心筋梗塞などを発症された人において高血圧,高脂血症に加えて骨粗鬆症などまでが診断された場合に,EBMのみを重視すると処方なども多量となります.結果として,すべての内服が時におろそかにされ,最も生命予後に関わる重要疾患の治療が影響されるような事態をしばしば見受けます.EBMに基づいた治療方法だと強調されるあまり,すべてを並列して実践してしまうことが危惧されます.
 EBMに基づいた的確な医療には,個々の症例において治療が重要な疾患を順序づけ,適切な総合的判断のもとに診療できる臨床医が不可欠です.単に,EBMのみに振り回された診療を行うような単眼的見地に陥らないように警鐘をする必要があり,EBMに基づいた治療を有効にするためにも,そればかりを強調するのではなく,重要な疾患の順序を考慮したEBM医療が望まれると考えます.


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