日医ニュース 第999号(平成15年4月20日)
会員の窓 |
会員の皆さまの強い要望により,投稿欄「会員の窓」を設けました.意見・提案などをご応募ください. |
開業医が病気になったとき 加藤正直(宮城県・仙台市医師会) |
私は,開業三十八周年を過ぎたが,その間狭心症のため,三度入院し,三回目にはついにCABGの手術を受ける羽目になってから十年目になる.
第一回目は,昭和四十六年九月夜,医師会の会合に出席していたときで,かなり重症のため,居合わせた先輩S先生が,私の脈を取り,もう駄目だといわれたことをかすかに覚えている.幸い,市立病院内科医長の友人T君が駆けつけてくれ,入院のうえ,不眠不休の治療をしていただいたお陰で,二カ月で退院して一命を取り止めた.この時は,開業七年目で最も多忙な頃であったので大打撃であった.開業直後でも,無理は禁物であると痛感した.
二回目は,昭和五十三年秋,宮城県沖地震の後で,その心労のためか,診察中に発作を起こし直ちに大学病院に入院した.その間,たびたびの発作の際,「ドクターだから大丈夫よ」とナースが励ましながら心電図を取ってくれたのが印象的であった.この時の主治医のM先生は,後にF医大の教授になられた.開業後最も脂が乗って来た時の入院は,私にとって大きな痛手であり,患者のことが気掛りで年末,無理にお願いして退院させていただいたが,その時,「先生!聴診器は重いよ」といわれた.T教授の御言葉は,いまだに忘れられない.
その後,無事,平成四年まで診療を続けて来たが,同年十二月,第三回目の入院となり,今度はCABGの手術を受ける羽目になった.幸い名医のS先生の執刀のお蔭で,八十一歳の今日まで,何とか生き延び,診療している次第である.
世の中にこんな痛みがあるなんて! 清谷知郎(高知県・幡多医師会) |
土曜日の正午まで診療して汽車に飛び乗る.高知市で夕方に開催される「産業医セミナー」に出席し,資格を取得するためである.県医師会館には,老若男女のドクターがズラリで,講演の内容も大変充実していた.晩は,高校時代の友人一家と会食して楽しみ,いつものように軽く飲んで床に就いた.
未明に,下腹部の激痛で目が醒めてしまう.あまりの痛みに,二日酔い以外で初めて吐く.「救急病院」を探すと,昨日の会場だった.「夕べは医者として行き,今は患者として行くのかよ!?」と情けない気分になるが,そんな悠長なことなんかいってはいられない.うめきつつタクシーを飛ばすが,まだ閉まっており,私立の大きな救急病院にかけ込んだ.年輩の医師は,脂汗を流してうなっている私を見るなり,「あ,尿路結石ですね」と一言.自分で坐薬を入れ,点滴を受けて帰宅した.
九日後に,二度目の疝痛発作に襲われて公立病院へ.予備校時代に「二浪対一浪」のソフトボールをよくやっていた後輩が主治医だ.
「よく歩けましたね.普通は救急車だよ」と呆れ顔の彼の診察を受け,画像診断で「霜ふり状」の断面図を見て大いに反省をする.
幸い,三度目の発作は今のところ来ていない.だが,この転げ回るほどの痛みを体験してみて,患者さんの痛みの訴えをより親身に聞けるようになった気がしているのだ.
ニコチンの依存性 川勝純夫(静岡県・浜松市医師会) |
ニコチンは,快感を高める神経伝達物質(ドーパミン)を放出して依存症を招くだけでなく,ドーパミンの分解酵素(MAO B)の活性を低下させて,依存性物質による快感を持続させると判明したそうです(JAMA 275(16):1217―1218, 1996. ).
このため,喫煙常習者は,ニコチン以外の依存性物質にも中毒しやすくなります.未成年者の非行は,喫煙からシンナーや麻薬・覚醒剤へと進みます.前述の報告に基づけば,たばこを吸えば麻薬や覚醒剤などの誘惑に弱くなり,試しただけで止められなくなるのがその理由となります.肝機能異常があり,禁酒しなければならないのに酒を止められない人は,たばこのために酒の誘惑を断ち切れないことになります.
未成年者には決してたばこを吸わせてはならないし,禁酒が困難な人には,まず禁煙指導が必須となります.すでに,ニコチン補充療法にドーパミンを高める薬剤を併用して,従来よりも良好な禁煙率が得られた報告があります(BMJ 321:65―66, 2000. など).
この情報は,喫煙で発生率が上昇する疾患にかかわる医師のみでなく,教育関係者や警察官などにも周知すべきと考えられます.情報提供の機会を得られた先生は,よろしくお願いいたします.
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