日医ニュース 第999号(平成15年4月20日)

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わが国における小児救急のあり方

 小児救急は,国のレベルにおいても,地方のレベルにおいても整備されるべき重点項目に取り上げられている.しかし,保護者の期待と小児救急医療提供体制の間には大きな開きがあり,現時点では第一線の小児科医の犠牲のもとに小児救急医療が成り立っている.
 平成十四年三月,日医の「小児救急医療体制のあり方に関する検討委員会」が報告書を提出した.本稿では,その報告書を紹介し,その後の厚生労働省の取り組み,および日本小児科学会からの提言を紹介する.

I 日医委員会報告書

 少子化,核家族化,女性の社会進出,情報社会の進展,患者の権利意識の高揚などにより,「いつでも,どこでも小児科専門医の診察を受けたい」というニーズが高まっている.
 小児科を主たる診療科とする診療所は,小児科を標榜する診療所の一一・七%に過ぎない.この「内科小児科医」をどのように組み合わせて小児救急システムを構築するかが課題である.
 小児救急医療のシステム化は,(1)一つの施設で初期患者から三次患者まで診るセンター方式(2)初期,二次,三次の明確な役割分担をする方式の二つが考えられる.現在,二次救急機関にほとんどの患者が集中し,パンク状態となっている.
 システムの推進には公的補助制度が必要であり,(1)国は,小児人口を勘案した二次,三次救急医療機関の必要数を決め,都道府県と分担して補助(2)都道府県と複数の市区町村が相応の負担をし,行政区域を超えて初期機関を設置(3)医師の人件費を勘案した予算の計上(4)国からの補助事業の周知徹底(5)二次医療圏は,実際の患者の動きと一致しない場合も多く,小児医療になじまないことを提言している.
 日医の役割は,(1)実態把握に努め,国民の理解・認識を深める(2)診療報酬の適正な評価(3)小児救急医療を協議する会議の設置支援(4)厚労省に対する必要な施策の働きかけ―などである.
 都道府県医師会および郡市区医師会は,(1)初期救急医療体制の確保(2)都道府県医師会は,二次医療圏を超えて郡市区医師会をまとめる(3)行政の取り組みを待つのではなく,医師会が率先して地域の小児救急システムのあり方を決める組織づくりを行う(4)かかりつけ医機能の普及啓発を図ること―などの役割をもつ.
 委員会から,(1)医学的には軽症であっても,保護者が不安を持ち,緊急の受診を求める場合は救急患者として対応(2)小児科医による小児救急を支えるため他科と連携(3)三次救急医療機関は初期から三次まで,二次医療機関は初期から二次まで診ることを前提としたうえで,地域ぐるみで小児救急医療をシステム化(4)地域の小児医療体制を広報し,応急時の対応について啓発(5)保護者の不安を解消するための電話相談事業(6)診療報酬制度の抜本的見直し―などの具体的な提案をしている.

II 厚労省の取り組み

 平成十五年度厚労省予算の重点項目に小児医療の確保・充実を取り上げ,小児救急医療拠点病院などの小児救急医療体制整備に十三億七千三百万円を計上.内科医なども対応をできるよう,初期救急を中心としたマニュアルを作成する方針を打ち出した.
 平成十四年十二月,全国の地方厚生局長に,休日夜間診療所から医師派遣の依頼を受けた場合は,本務への影響を精査したうえで,兼業の許可申請を行うよう要請した.

III 日本小児科学会からの提言

 小児救急プロジェクトチームから『小児救急医療への提言』を発表.
 困ったときにアクセスできるホームページ,および小児科医による電話相談.人口三十から五十万人の地域ごとに小児科センター病院を設置.準夜帯は地域の協力病院・診療所から医師を派遣し,深夜帯はセンター病院の勤務医が対応.センター病院には十から十二名の小児科医を確保し,労働条件を満たし,心身ともに健康な状態で診療にあたる.
 センター病院システムが組めない地域では,厚労省が進めている「小児救急医療ネットワーク」の効果を期待する.

IV おわりに

 先日,アメリカ留学から帰国した医師のお子さんが小児救急を受診した経験談で,夜中に高熱と発疹が出て心配になり,マサチューセッツ小児病院の救急外来を受診したところ,千六百ドルかかった,とのことである.
 アメリカは国民皆保険ではなく,医療制度も異なるが,わが国における小児救急医療の診療報酬は,安いものだと実感した.
 いずれにせよ,それぞれの地域の実態に沿った小児救急体制の構築が必要である.

(大阪市立総合医療センター小児内科部長 藤田敬之助)


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