日医ニュース
日医ニュース目次 第1011号(平成15年10月20日)

視点

株式会社の病院経営

 市場原理主義者の意見が主流をなす総合規制改革会議は,株式会社による病院経営を許可せよと主張している.その議論をする時に,たびたび使われるのが,現在でも株式会社の病院が存在しているが,何の支障もないではないかという意見である.しかし,現在認められている株式会社の病院は,もともとは会社の福利厚生施設として,その会社の社員と家族のために認められたものを,一般の患者も診るということでオープン化したものである.はじめから営利を求めて株式会社が病院を設立したものではない.したがって,一般論としての株式会社の病院経営と同列に考えることはできない.
 ところで,この現在認められている株式会社の病院について,象徴的な二つの出来事があった.
 その第一は,トヨタ自動車が愛知県豊田市に外来専門の診療所を開設しようと企てた事件である.既存の株式会社病院であるトヨタ記念病院の隣接地に,病院とは別途に独立した診療所を作り,そこで一般の診療を行い,病院の外来は,救急と紹介患者だけしか診ないようにするという計画であった.この計画は,病院の外来患者の紹介率や入院患者比率を高くして,病院の点数を高くし,普通の患者さんの分は別途の外来専門診療所で請求し,さらに形式的病診連携で病院への紹介料も請求しようという,露骨な金儲け主義の考え方である.幸いにして,愛知県医師会と地元医師会の適切な対応と愛知県社会保険事務局の適正な判断により,この計画は認められずに,病院の外来棟として開設されることになった.
 その第二は,一年近く前のことであるが,神奈川県川崎市にある株式会社日本鋼管病院が医療法人になった事例である.株式会社日本鋼管(現JFE)は,業績の不振から会社の建て直しを図るために,営利を求めるべきでない病院の経営を放棄し,営利会社である日本鋼管と分離して病院を医療法人化した.出資については,出資額限度方式として,利益を一切求めないこととし,日本鋼管関係の理事者を三分の一に抑え,営利企業である会社が病院の健全な運営を左右しないことを明らかにした.
 この二つの事例を比較すると,金儲け主義の株式会社と良質な株式会社の病院に対する考え方の違いが非常に良く分かる.と同時に現在ある株式会社病院は,何の支障もないではないかという意見が間違っていることがはっきりと分かる.現在ある株式会社病院は,日本鋼管病院の例にならって,すべて医療法人化し,営利を求めないという姿勢を明らかにすることが,正しい方法であると考える.
 自由診療で高度な医療に限るという条件つきながら,構造改革特区において,株式会社の病院経営を試してみるという実験が行われようとしている.上記の事例からみても,この件に関する今後の動向を十分に監視していく必要がある.

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