日医ニュース
日医ニュース目次 第1014号(平成15年12月5日)

視点

SARS―その蓋然性と対策―

 いよいよSARSの警戒期間が近づいた.感染症は,いつ,どこで発生しても,常時万全を期するよう,体制を整えておくことが必要であることはいうまでもない.特に,SARSについては,いまだ日本での発生経験はなく,病気の特性を考えれば,その発生の蓋然性を考え必要に応じた最大の対策を講ずることが必要である.
 第一レベル(平常時)では,(1)医療機関の整備(SARS入院対応医療機関・SARS外来医療機関の整備,一般医療機関─予期せぬ来院─への対応)(2)医師の研修と自覚(3)情報連絡網の整備(4)国民並びに医療関係者のインフルエンザの予防接種等が必要である.
 第二レベル(国外での発生時)では,(1)水際作戦の強化(2)電話相談によるSARS外来医療機関への受診指導(3)SARS情報の徹底(国民・医療機関への周知)(4)重点地域の指定と対策強化(5)対策本部の設置等が必要である.
 第三レベル(国内発生時)では,早期の発見と完全な封じ込めが必要である.封じ込め作戦については,国も,感染症法や検疫法を改正し,蔓延防止のため国の権限強化を図るとともに,SARSを一類感染症に位置づけた.
 一類感染症において,患者は入院を勧告され,その医療費は全額公費で支払われる.
 しかし,予期せぬ患者が来院した一般医療機関では,風評被害による多大の損害を受けるばかりか,医師の就業制限を受けたり,建物への立ち入り制限や封鎖を受ける場合があり,何らかの補償を考えないと医療機関は倒産に追い込まれることになってしまう.医療機関は,一般のホテルや店舗と違い非営利性であり,応召義務がある他に,強制的に閉鎖される点等の特徴があることを主張し,現在,国の補償を交渉中である.
 また,日医としても,会員互助の精神から,犠牲になった医療機関に対して,共済制度の創設や,臨時対策費,義援金等の形で,補助を検討しなければならないと思う.しかし,あくまでも補償は,医師の使命感による尊い犠牲への報酬であり,はじめに補償ありきというものではない.
 中国本土広東省の蔓延では,医療関係者がその三〇%を超えており,また,世界に拡げたいわゆるスーパースプレッダーは一人の医師であったというし,国を騒がしたSARS騒動も台湾人医師であった.SARS政策に真正面から立ち向かい,国民を安心させることは,医師の責務である.医師が,安全にその任務を果たせるよう,万全を期さなければならない.

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