日医ニュース
日医ニュース目次 第1027号(平成16年6月20日)

会員の窓

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保健所所長は医師でなければ
橋本周三(兵庫県・尼崎市医師会)

 日医ニュース一〇二四号に,保健所の所長は医師でなければと,坂口厚労大臣へ厚労省案に反対の要望を述べられたとの記事が載っていたが(該当記事),この問題は,今,始まったことではない.私は,医師会論に賛成だが,これまでの経緯と今の政府の方針から考えると,医師会側にも考えなくてはならない問題がある.
 これまで,保健所長に欠員があっても,兼任という形で済ませてきたきらいがあり,また,この所長の不足に対し,必要な医師を養成することなく,今回のように既得権や政治的にしか対処しなかったように思う.
 医師の不足の原因は,保健所業務にあり,医療的感覚を満足させる業務が少なく,保健所に医師が勤務したがらなかったからである.その理由は,保健所には二つの異なる性格の業務があり,一つは,検診や健康相談,検査等の「公の施設(営造物ともいう)」的な業務であり,今一つは,許認可事務や施設の監視など「行政庁」的な業務である.[注:公の施設とは,鉄道,道路,学校,病院等を指し,政府は民間へ移譲の方針]
 現在,すでに,この二つの業務は分離され,前者は保健センターに,後者は保健所に残されているが,保健所の数は大幅に減らされた.
 行政に技官の必要性は当然だが,現代の医学教育では,これに携わる医師の数は減るばかりである.行政の知識を持ち,医療より公衆衛生や社会医学,労働―環境衛生,疫学,社会福祉等の社会から医療を,少なくとも疾病から社会を見る医師を養成することが大切である.行政になじむ医師の人材の確保がなければ,要望も水泡に帰するだけである.

末期医療が新聞ネタになる場合
田村豊幸(東京都・日本大学医師会)

 五月十四日,「人工呼吸器外し死なす・九十歳男性・殺人容疑で医師らを聴取・脳死状態―危うい説明」との見出しで,食物をノドに詰まらせて自宅で発見され,心肺停止で搬送された例が新聞に出た.
 処置により,心臓は動き出したが,呼吸は戻らず,意識不明のまま人工呼吸器を装置したが,家族に,「回復の見込みはなく,脳死のような状態で長くはない」との趣旨を伝え,十四時間ほど後に血圧低下,尿が出なくなったので,「搬送時より悪くなっている」と医師が伝えた.親族が相談し,治療停止の希望を伝えたので,症状発生の翌日に呼吸器を外し,間もなく死亡したという.
 医師は死亡の時点で,自ら“異状死”として警察に電話報告し,警察は「脳死との判断が厳密だったか,どうか」調べているという.
 ところで,新聞によると,別の医師は,「カルテを見た限り,呼吸器を外さなくても,一〜二時間後には間違いなく心停止したが,私が主治医だったら,人工呼吸器を外さず自然死させる.事前に相談してほしかった」と述べたという.
 日医は先に医師の職業倫理指針として,後医が前医の行為をさしたる理由なく云々すべきでないことを示している.新聞は,脳波も調べず脳死はおかしいとさえ報じている.医師は相手をみて用語を使うべきことも考えさせられたのである.

内科,小児科??
黒須 譲(愛知県・名古屋市医師会)

 「内科,小児科ですが」と何回事務員がいったであろうか.
 先日、休日急病診療所での三度目の勤務を終えた.ゴールデン・ウィーク真っ最中だけあって,「先生,大当たりですね」と看護師にいわれる.要領の良いスタッフのおかげで何とか時間内に終わり,帰宅.ドッと疲れた.
 その日は六十人近く来たが,九割は小児.発熱,下痢,腹痛,湿疹.小児科医だったら何ということはないだろう.しかし,私は小児科医ではない.小児科医を名乗ったこともないし,小児科を標榜してはいない.小児科専門医はおろか,パートタイム小児科医でもない.
 その,日ごろはまったく小児を診ていない医師が,年に一回ほど,急に小児一次救急の現場に置かれる.最近,問題があったのか(?)患者(親)が聞けば,当番の医師が専門医であるかどうか教える.知らぬが仏か,聞かれなければ,「内科,小児科です」になってしまう.内科医でも,「ちょっと」研修すれば小児が診られるという考えの方もいるようだが,私には理解できない.
 小児科医が一発で診断できる病気を,いつかは私が見落とすことだろう(すでに見落としている?).そのとき,だれが責任をとるのだろう.どうやって家族に説明するのだろう.「内科,小児科といったじゃないですか!」といわれた時点ではもう遅い.
 次回より,「内科です」に止めてほしいものだ.

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