日医ニュース
日医ニュース目次 第1028号(平成16年7月5日)

「規制改革 その先にあるもの」

「規制改革」の組織

 十年ほど前,当時の行政改革委員会に規制緩和小委員会が設置されて以来,多くの政府関係組織が,規制改革に関してさまざまな提言や方針を波状的に打ち出してきた.
 なかでも,図1に掲げる組織は,わが国の社会保障の理念に重大な脅威となる存在である.これらの組織によって行われる規制改革は,大まかに次のように分けられる.

図1 規制改革に関する組織,体制

 (一)「特区」による規制改革
 特区(構造改革特別区域)
制度は,全国的な規制改革がなかなか進捗しないために,一点突破を狙って旧総合規制改革会議により導入されたもの.同時に,地方・企業等の直接参加という新たな規制改革の手法を生み出した.特区のアイデア応募を通してだれもが規制改革を提言し得るこの手法は,その後,全国規模の規制改革にも取り入れられている.
 (二)全国規模の規制改革
 旧総合規制改革会議の後継の規制改革・民間開放推進会議は,わが国の規制のあり方を検討する中心的存在であり,関係省庁への資料請求権など通常の会議にはない権限が与えられている.この他,経済財政諮問会議,地方分権改革推進会議または財政制度等審議会など,「規制改革」をその名称に冠しているか否かに関わらず,多くの組織による提言がなされ,国の政策に取り入れられている.
 (三)閣議決定
 特に,規制改革・民間開放推進三か年計画は推進会議の答申をもとに策定され,政府の方針として規制改革を実施するものである.この他にも,骨太の方針(経済財政運営と構造改革に関する基本方針),特区基本方針,予算編成の基本方針等を決定して規制改革をオーソライズする.また,株式会社の医療参入(特区法改正)のように,必要な場合には国会への法案提出も行う.

最大の問題点〜いわゆる混合診療の解禁〜

 規制改革・民間開放推進会議では,当面の重点検討事項を「官製市場の民間開放」に絞り,七月の中間取りまとめに向けて集中的な審議を行っている.医療分野では,「混合診療の解禁」と「医療法人の経営方式のあり方」を具体的な検討事項として挙げている.
 なかでも,混合診療(保険診療と保険外(自由)診療の併用)の解禁は最大の問題である.図2の資料は規制改革・民間開放推進会議が提出したもので,その内容は,混合診療の解禁が,保険診療(=公的保険給付)の内容および範囲の縮減を目標としていることを自ら認めるものである.また,骨太の方針や財政制度等審議会の建議でも公的保険の守備範囲の見直し(つまりは,縮減)が主張されている.

図2 規制改革・民間開放推進会議

 公的保険の守備範囲の縮減は,新しい医療技術に保険を適用して国民全体がその恩恵を享受できるようにしている現在のシステムの崩壊を意味する.一定金額までの医療費を全額自己負担とする保険免責制度の導入とも相まって,公的負担の縮減と経済活性化のために,国民皆保険制度を破壊するものである.
 しかしながら,一般国民には,混合診療の解禁によって医療の選択肢の範囲が広がるとPRされているのが現状である.選択肢が広がるのは,限られた人々であることを理解し,バラ色のフレーズの背後に隠れたマイナス面をよく見極めなければならない.
 また,もう一つの検討事項の「医療法人の経営方式のあり方」とは,営利法人が医療法人の構成員となり,さらにその社員総会(=最高意思決定機関)の議決権の大半を取得することを求めるものである.最終的には,営利法人による医療法人の買収も視野に入り,株式会社の医業参入の既成事実化を狙っているものと推測される.

医師,医師会の責務

 生命,健康はお金には代えられない.だからこそ,われわれには,医療を市場原理から守り,国民のだれもが適切な医療を低い負担で受けられるシステムを堅持する責務がある.
 規制改革を進め,そのことにより利益を得ようとしている人々の提言には,当然,マイナス面の表現が最小限に抑えられているはずである.目先の利益にとらわれず,規制改革の狙いがどこにあるかを見極め,それがわが国の社会保障の理念を脅かすのであれば,断固として反対していかなくてはならない.

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