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第1028号(平成16年7月5日) |
NO.9

医療の質の向上―どのように評価し,どのように向上させるか―
梅里良正(日本大学医学部社会医学講座医療管理学部門助教授)

昨今,医療の安全性の向上,質の確保が医療界の最大の課題となっている.今回は,その課題を克服する手段について,医療管理学,医療評価が専門の梅里良正日大助教授に考察してもらった.(なお,感想などは広報課までお寄せください)
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梅里良正(うめさとよしまさ)
早稲田大学大学院理工応用物理学修了.平成7年7月から日本医療機能評価機構客員研究主幹.専門分野は医療管理学,医療評価. |
はじめに
一九〇〇年代の初頭,米国の外科医E. Codmanは,医療提供者は医療提供の結果を自ら評価し明らかにすべきであるとし,End Result Systemと呼ばれる診療成績開示のシステムを提唱した.彼のこの早過ぎた提案は,当時の医療界で受け入れられることはなかったが,約百年を経た現在,診療成績の比較検討に関する多くの研究が実施され,社会は確実にこれを求め始めている.
医療に限らずほとんどの業務遂行において,計画→実行→評価→改善のPDCA(Plan Do Check Action)サイクルは,実施している業務の質や効率の向上を図ろうとする場合に欠かすことができない.
そして,医療へのアクセスが一定程度満足された現在,安全性,質,効率の向上が時代の要請として強く求められていることは改めていうまでもなく,いかにして提供された医療を適切に評価するかという,評価の方法論の検討が急務の状況にある.
病院機能評価による質の向上
(財)日本医療機能評価機構の実施する病院機能評価は,第三者の専門家チームによる病院の外部評価方式を採用した.医療の安全性や診療の質の確保など,一般急性期病院については六領域五百七十七の評価項目(Version 4)を設定し,一定の判定指針に基づき各項目の達成度を評価するものである.
現行の病院機能評価事業においては,(一)評価が短期間の病院訪問で行われるため,最終的な診療成績の評価が難しく,どちらかといえば病院において医療を提供する体制(Structure)の評価が主体となる,(二)評価者により評価が必ずしも一定せず,バラツキがある,(三)評価は五年に一度であり,その間の医療の向上に対するインセンティブが少ない─などの課題がある.これらは,評価結果としての認定証の発行の公平性,認定された病院の診療成績が一定水準を満たしていることの保証などの観点からは,大きな問題といえる.
しかしながら,病院における医療サービスの向上のツールとして考えた場合は,既述の問題は残されるものの,確実な効果が得られていると考えられる.すなわち,病院機能評価の受審手順においては,外部評価者による訪問審査に先立ち,同一の評価項目を用いて病院が自己評価することを求めており,この過程が医療提供者に日常の業務遂行状況を振り返り,見直しをする絶好の機会を与えている.院内の職員が自ら自院における医療提供の状況を一丸となって見直し,改善を図る機会は極めて貴重で,これによる医療サービスの安全面,質,効率面における向上効果は計り知れない.
病院機能評価において,診療成績の具体的な評価を取り入れていくことを期待する一方,現行の病院機能評価を積極的に受審・活用することを推奨する所以である.
クリニカル・インディケーター
医療サービスの評価として,診療成績の評価が次第に強く求められるようになってきていることはすでに述べた.診療成績の評価を具体化するためには,評価の物差しが必要である.このような診療成績を測る物差しはクリニカル・インディケーター(Clinical Indicator以下,CI)と呼ばれ,近年その開発が活発に行われている.
CIによる医療サービスの評価は,医療成果の直接的な評価となるだけに,その正確性について十分な注意が必要である.例えば,代表的なCIとして,がんの術後五年生存率などが挙げられるが,五年生存率を計算する場合,対象となる患者群の死亡に対するリスクの均質性(がんの進行度,患者の年齢など)が重要であることはいうまでもない.各施設が対象となる患者群を独自の基準で抽出した場合,五年生存率を施設間で比較することは意味をなさない.
このようにCIによる診療成績の評価においては,CIを算出する分母・分子の抽出基準を明確に定めることが肝要であり,早急にわが国におけるCIの標準化が期待されよう.同時に標準化された一定の基準によるCIの算出を保証するために,公平な第三者による診療成績の把握が,より望ましいと考えられる.
診療成績と診療報酬
診療報酬は,医療施設における医療サービスの提供に多大な影響を及ぼすため,診療報酬支払い制度のなかに,良質な医療に対してそれなりに報酬を支払う仕組みを組み込むことは,医療サービスの向上を図るうえで極めて有力な手段の一つと考えられる.
例えば,望ましい医療が提供された場合,その必要なコストに対してやや高めな診療報酬を設定し,そうではない医療が提供された場合,必要なコストは保証するがその発生率を公表する.一例として,一定の基準で抽出された手術症例群において,術後合併症が発生しなかったケースを望ましい医療提供として,高めの診療報酬を支払うなどである.
このような支払い方式では,術後合併症を発生させないことが,患者,施設双方にとって有益であり,できるだけ望ましい医療提供を目指そうとするインセンティブが働くことになる.
おわりに
これからの最大の課題と考えられる,医療の安全性,質,効率の向上を図る手段として,第三者による病院機能評価,CIを用いた診療成績の評価,診療報酬による経済的な誘導の三つの手段について私見を述べた.
医療サービスの向上は,最終的には職員一人ひとりの意識改革に負うところが大きいと考えられる.日常の診療が適切なものであるかを定量的,科学的なデータに基づいて振り返ることが必要であり,制度のいかんにかかわらず,各施設においては積極的に診療情報の整備を図り,それぞれの施設に見合ったCIを把握することにより,診療成績の正確な認識が促進されることを期待したい.
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