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第1029号(平成16年7月20日) |

出資額限度法人制度化に向けて

厚生労働省の「医業経営の非営利性等に関する検討会」の報告書が,六月二十二日にまとめられた.
このなかで,持ち分のある医療法人と特別,特定医療法人などの持ち分のない医療法人の中間に位置づけられる出資額限度法人の定義が示され,定款変更により,持ち分のある医療法人から移行しても,医療法人や出資者には課税が生じないことが明示された.
医療法人制度は創設から五十余年が経過したが,その九八%を占める持ち分のある医療法人は,出資者すなわち社員の脱退による高額の払戻請求や,死亡による相続税の問題など医療法人存続に関わる大きな課題を抱えており,出資額限度法人の制度化には強い期待が寄せられていた.今回,課税関係を含め,一定の見解が示されたことは,法制化への大きな一歩であると評価できるが,課税関係は例外的ケースも含め複雑である.
脱退社員への払戻額を出資額限度とすれば,非課税なのは当然だが,残った他の出資者には,一人当たりの剰余金すなわち持ち分の増加に伴う,みなし贈与課税が生じる.また,出資者死亡時には,相続人が払戻請求をすれば,出資額に対してだけの相続税となるものの,一般的な医業継承のパターンである地位や持ち分もそのまま相続する場合には,相続税は高額となり,継承問題は解決しない.これに対し,いったん出資額を払戻してから再出資する手段も考えられるが,税務当局がどう判断するかは不明であるなど不透明な部分も多い.
一方,他の出資者のみなし贈与課税回避には,公益性の担保を求めている.(1)同族の出資割合が五〇%以下(2)同族の社員割合が五〇%以下(3)役員の同族割合が三分の一以下と定款で規定(4)役員などへの特別な利益供与がない―の四項目を満たせば,みなし贈与とはならず,非課税となる.
しかし,このなかで,(1)の条件のクリアが最も難しいと思われる.開設者がほとんどを出資している多くの医療法人では,同族の出資割合を五〇%以下にするには,増資が必要になってくる.医療法人の七割以上は,資本金二千万円以下であるため可能であるようにも思えるが,資本金が一億円以上の医療法人も八百以上あり,この場合は,減資をした後,増資をするなどの複雑な対応が必要になる.
しかし,少額の出資で社員権を取得できるということは,もしも出資額に応じた議決権が認められるようにでもなれば,営利法人などによる医療法人支配への道を開くことにもつながりかねないし,一般の医療法人への後戻りも完全に禁止されなければ,新たなモラルハザードが生じる可能性もあり,解決すべき課題は多く残されている.
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