日医ニュース
日医ニュース目次 第1037号(平成16年11月20日)

視点

「三位一体改革」の意味するもの

 

 国税から地方税への税源移譲,補助金の廃止・縮減,交付税の改革を同時に行う「三位一体改革」を巡る論議は,昨年五月来論議が続けられてきたが,昏迷の度を深めつつ大詰めを迎えようとしている.
 そもそも,この「三位一体改革」は,国と地方との役割をもっと明確にした地方分権型社会に向かって,衰退した,あるいは衰退しつつある地域社会の再生を図ろうとするものであるから,本来は良いことなのだが,税財政の面からの論議が目立って,目指すべき社会のあり方について,じっくりと話されてこなかったため(少なくとも国民には伝わっていない),特に保健・医療・福祉の領域や教育の分野から見るとマイナスイメージが強い.
 地方分権化を進めるのであれば,一方では「社会的共通資本」たる医療や教育の基本構造は国がきちんと守ることが必須条件である.ところが,医療においては,混合診療解禁によって国民皆保険制度の破壊への流れを国自身が作ろうとしており,これでは国の責任放棄に等しい.
 十月六日に地方六団体が提案した三兆二千億円の補助金削減案のうち,厚労省関係については九千四百四十億円だが,このなかには,医療施設等施設整備費補助金,救急医療施設運営費等補助金,病院内保育所運営費補助金,訪問看護推進事業等,地域医療対策費等補助金,看護師等養成所運営事業費,地域診療情報連携推進費補助金,保健衛生施設等施設整備費補助金,疾病予防対策事業費等補助金,感染症指定医療機関運営費など,地域医療や公衆衛生に関連する項目がそっくり含まれている.
 これに対して,二十八日,厚労省は,(1)国民健康保険の補助率引き下げ(地方への財政調整権限の付与)(2)生活保護制度における税源移譲(3)児童扶養手当制度における税源移譲などによって,補助金を九千億円程度削減するという,地方にとっては実質ゼロ回答に近い対案を示した.
 しかし,「厚労省意見の概要」を詳細に見ると,国民健康保険制度については,「医療費適正化に当たっては,医療費に地域格差があるなかで,都道府県が作成する医療計画,健康増進計画,介護保険事業支援計画を通じた都道府県を中心とする総合的な取り組みが必要であり,また,保険運営の広域化に当たっては,保険者と都道府県が連携し,医療費の地域差を縮小し,保険料の平準化を進めることが必要である」と,医療費抑制の本音が見える.
 また,負担金・交付金についても,「従来の細分化された補助金・負担金を,分野ごとの大括りな統合補助金・交付金へと再編・統合する」と述べており,効率化のもとに,結果として地域医療への補助金がカットされる可能性がある.
 いずれにしても,「地方への裁量権移譲」の名のもとに,医療提供の財源が「行方不明」になる恐れがあるので,今後,各地域においても地域医療関係の予算折衝において,保健・医療・福祉提供体制の後退を来さないように,しっかりとウォッチし,また,折衝することが必要である.

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